拡大する社会保障給付費の財源確保は営利企業に対するESG投資も視野に
東京や大阪で2年前の年末年始に、スーツの襟元に17色の環状のバッチをつけた紳士風の人にたくさん出会ったと記憶していますが、あれは今どうなっているのかわかりません。SDGsバッチなのですが、おそらく上場会社の役員以上風の人々に大流行したのではないかと思います。バッチをつけている人は「わが社は持続可能な開発目標に賛同しています」ということをアピールしたいのだと思いますが、それは大変結構なことです。
SDGsは20年前に策定されたミレニアム開発目標の後継として15年9月25日の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載され30年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のことです。17のゴール、169のターゲット、232の指標から構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っています。SDGsの各目標はロゴになっており、17のロゴの色を使ったバッジもこの時公表されたのです。SDGsは発展途上国のみならず、先進国自身が取り組むユニバーサルなものであり、日本としても積極的に取り組んでいますので、賛同して頂ける企業も多数あることはうれしいかぎりです。
20年前ごろから日本ではCSRと呼称される「企業の社会的責任」に多くの営利企業が活動を本格化してきました。これは企業に対して「製品の安心・安全」「環境への配慮」「倫理的な企業活動」などが企業経営のリスクと認識された結果であるともいえます。もちろん➀企業イメージの改善、②顧客からの信用獲得、③株主や投資家からの信頼獲得、④従業員を含めたあらゆるステークホルダーに対してのアピールが目的です。わたし流に言い換えると、企業活動の倫理性への厳格化、企業の社会的責任への要請、企業の「のれん」に対する信頼の醸成ということが、企業活動の結果を左右する要因であるという認識が高まった結果であると理解できます。
◎単なる利益追求集団として企業活動を再認識してみる
経済を発展させるには企業活動は必要不可欠である。それゆえ、企業活動が盛んになることは社会全体の効用に有効で、規制を最小限にしてしっかり稼ぎ、雇用も広げ、賃金も税金もしっかり払って欲しいと思います。一方、自社のあくなき利益追求ばかりが目立つ企業の不祥事は、いつの時代にも是正されず、利益確保を最優先する現実を垣間みることもあります。半世紀前には公害問題とか企業の不正行為から企業性悪説時代の空気がありましたし、その後も今日まで企業性善説が優勢であるわけではないのではないかと思います。
やりたい放題に企業活動することに対して、倫理性の厳格化、社会的責任の追及、そしてステークホルダーからの信用拡大の要請は、企業に大きな足かせとなっているともいえますが、それに対応できなければ企業として生き残れないという現実に直面しているのです。人口減少にともなって人を確保できるかどうかが企業活動の成否を決定してしまいますし、事業を拡大するためには何らかの方法で資金調達が必要です。金融市場からの資金調達には経常利益の安定的確保、資金返済能力を示す必要があります。これに加えて株式市場からの資金調達には、何よりもステークホルダーからの安定的、時には熱狂的支持が必要なことがあるように思えてなりません。だから「企業の社会的責任」を果たすことが必要なのです。
このように考えてみると、営利企業はもはや単なる利益追求集団ではなく、社会的責任を全うする法人として再認識した方が良いのかもしれないと思います。そう思いたいのですが、一部の財界人の発言や度重なる企業の不祥事の報道に触れると企業性悪説を思い出してしまい、素直に企業性善説を軽々に支持できないと警戒してしまいます。
◎Environment・Social・Governance投資へ
ESG投資が世界で急激に広がっています。これは従来の財務情報だけでなく、環境・社会・ガバナンスの要素も考慮した投資の総称です。特に、年金基金など大きな資産を長期で運用する機関投資家を中心に、企業経営のサステナビリティを評価するという概念が普及してきました。気候変動などのリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会を評価するベンチマークとして、SDGsと合わせて注目されています。
日本では投資にESGの視点を組み入れることを原則としている国連責任投資原則(PRI)に、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が15年に署名したことを受け投資が広がっています。米国でもERIS(従業員退職所得保障)法により企業年金の積立金をESG投資に回す政策を打ち出しているそうです。
このESG(環境・社会・企業統治)投資は、「企業の社会的責任」に対する株式市場の成績表として、極めて重要なのではないかと思います。調べてみると日本の各企業年金も米国の企業年金もESG一色ということにはなっていないようですが、株式市場も各企業もESG投資について固唾をのんで注視していることは明らかです。
各種年金基金を引き金にESG投資が世界の潮流になれば、「企業の社会的責任」の要請も、SDGsも気候変動問題も、そして社会保障財源の確保にも有効なのではないでしょうか。社会保障給付水準の維持・改善には制度と企業が密接に連帯する必要が今後益々重要になるはずです。
社会医療ニュースVol.47 No.556 2021年11月15日