失礼ながら今回の診療報酬改定議論は医療のパーパスさえ吹雪の中で見失う

中央社会保険医療協議会で診療報酬改定議論が進められています。会議の資料も議事録も全て公開その上ライブでも放映されているので、臨場感があって興味深いものの、なぜか意見表明みたいなことがつづいているだけで、結末がどうなるのか全く予想できないのです。少し前までは中医協の下部組織である「診療報酬調査専門組織(入院医療等の調査・評価分科会)」の広範な討議の展開は、すごく専門的なようで一部駆け引きみたいな議論もあり興味深く拝見していました。

議論されているということは、その部分でプラスかマイナスかの報酬改定があると考えても良く、波風立たないで議論が進められていることがあれば、多分、その部分で何らかの評価が下される確率が高いことになります。逆に議論が先で、議論の一致が困難で、場合よっては両論併記ということになり、大げさにいえば医療のあり方を根本的に変更せざるをえない瀬戸際までもつれる議論は、結論がえられず、見送られるか、すこしだけ芽出しをするか、半年とか1年後の時差改定になるか、それとも断行されるかのいずれです。

長年、診療報酬改定をネット裏から観戦してきた経験では、大もめにもめればもめるほど歴史的な改定、小波程度で議論も紳士的でシャンシャンという感じの改定は、財政的にも経営的にも影響があまりない、結果的に医療提供に必要な費用の小幅の改定です。

今回の議論は、細かい部分では意見の対立がありますが、論点が「引き上げか、引き下げか」みたいな根本問題に集中しすぎていると思えます。それと、見え隠れする財務省の強硬な姿勢、官邸の不鮮明な方針が、議論の進展に暗い影を落としているように思います。診療報酬改定に対する財務省の姿勢は不変でしょうが、官邸は明確な意思決定を行っていないのではないかと考えられるのです。はっきりしたいのは、診療報酬改定議論に参加されている方は、それぞれの利害を代表され、公益委員の皆様には多大の努力をお願いしているのですから、議論は精緻に進められていきます。しかし最後は、政治決断ということになります。

◎第23回医療経済実態調査結果をどのようにみるのか

「年度調査の結果より、新型コロナウイルス感染症関連の補助金を含めた損益差額率は一般病院全体では1.2%の黒字、国公立を除くと2.8%の黒字であり(R2年度加重平均)、H25年度以降で最も高い水準であった。開設者別にみると、医療法人・公的・その他は、1.2~5.4%の黒字であった。公立では、-7.3%の赤字であったが(R2年度)、R元年度と比較して6.9ポイント上昇した」。これは確かにその通りなのです。

診療側の見解では「診療報酬による特例的な対応があったものの、コロナ補助金を除く損益差額率は大きく悪化した。コロナ補助金を含んだ損益差額率も、一般病院ではほぼプラスマイナスゼロ、一般診療所では前々年(度)よりも縮小した。一般病院(国公立を除く)、一般診療所(医療法人)ともコロナ補助金がなければ約半数が赤字になるところであった。一般病院では、コロナ補助金を含めても、赤字病院が4割を超えている」。これまたその通りなのです

違いは、コロナ補助金をどのようにみるかです。一般的には病院の経営状況は「損益差額率」と命名されている経常利益率で判断するものであるので、補助金があろうがなかろうが関係ないといってしまえばそれまでです。だだし、議論しているのは来年4月からの診療報酬改定であり、来年、感染症関連の補助金が皆無になっているかもしれないことも事実なのです。

とても悩ましい議論です。どちらが正しいのかというより、診療報酬は医療サービスを現物で給付する医療保険制度で、そのサービスを提供するための費用を償還するための公的一時的な収益に過ぎない補助金の状況より、来年4月以降の2年間の医療機関経営が継続できる価格設定であるべきだと考えられます。これは、原則論です。

◎結局は官邸が熟考を重ね政治的に判断を示すべき

パンデミックに耐えられる医療システムを構築するための医療をめぐる課題は山積みにされています。医療従事者の働き方改革もあります。また、「新しい資本主義」では医療サービスをどのように革新するのかについて、これといった方針が示されているわけではありません。少なくとも、診療報酬は引き上げるのか、引き下げるのかという姿勢を示すべきだと思います。もちろん、薬価との関係もありますので「薬価引き下げ分だけ診療報酬本体を改定して、全体では0改定」というような、何ともならない玉虫色の解決というのもありかもしれません。

今の局面で必要なことは、首相官邸のリーダーシップだと思います。もし、1%以上報酬を引き下げれば、大きな混乱が予想されますし、逆に1%以上の引き上げもかなり難しい選択になるように思えてなりません。

いずれにしろ、日本の医療サービスをどのようなものにするのかというパーパスも示せず、政治的な妥協の産物化してしまえば、この先の医療サービスに対する期待も医療従事者の賃金問題も、そして何よりもより良い病院の再編方針もぐちゃぐちゃにならざるをえないのではないでしょう。

社会医療ニュースVol.47 No.557 2021年12月15日