岸田首相は全世代型社会保障構築会議を中心に社会保障を再編すると宣言したが
今回の経済対策で、最初に手をつけるべき政策を実現させた後に、日本の未来を担う「若者世代・子育て家庭」にターゲットを置き、その所得を大幅に引き上げることを目指していきます。
カギは、「人への分配」に加え、「男女が希望通り働ける社会づくり」、「社会保障による負担増の抑制」です。
全世代型社会保障構築会議を中心に、女性の就労の制約となっている制度の見直し、勤労者皆保険の実現、子育て支援、家庭介護の負担軽減、若者・子育て世帯の負担増を抑制するための改革、さらには、こども中心の行政を確立するための新たな行政組織の設置に取り組んでいきます。
これらの政策を総動員することにより、分厚い中間層を取り戻していきます。
以上は12月6日の衆議院および参議院本会議で、第207回国会における岸田総理の所信表明演説の一部です。コロナ克服、経済回復そして成長、その後が社会保障政策だという判断し、若者・子育てが先決で、男女が希望通り働ける社会づくりを進める、その他の広範な社会保障の政策課題は全世代型社会保障構築会議を中心に検討してもらい、その結果を受けて進めたい、と読めますよね。
久しぶりにすっきりした演説で言語明朗でわかりやすかったです。全文を読み返して感染症対応以外の部分では、デジタル関連で「遠隔医療」、分配に関連して看護・介護・保育・幼児教育の給与引き上げに触れてはいますが、医療、介護、福祉分野に関しては特に発言がありません。不思議なのは「社会保障による負担増の抑制」と「女性の就労の制約となっている制度の見直し、勤労者皆保険の実現、子育て支援、家庭介護の負担軽減、若者・子育て世帯の負担増を抑制するための改革」は全く逆のことなのかどうかわかりません。
「社会保障による負担増の抑制」とは、各種保険料が過大にならないように抑制するということだと思いますが、「家庭介護の負担軽減」と「若者・子育て世帯の負担増を抑制」は介護サービスを充実し、若者・子育て世帯の負担増にならないようにするということであるように思います。素直に読むと、若者・子育て世帯の負担にならない方法で介護サービスなどの給付を手厚くするということのように思えます。40歳以上の人でも子育て世帯が少なくありませんが、高齢者の一部(自己)負担金や保険料を引き上げざるをえませんよね。
そんなに深い意味はないのでしょうが、それを含めて「全世代型社会保障構築会議」の結論を待つという意味でしょう。これはこれで重要なことです。会議に参加するメンバーの皆様方には大きな期待が寄せられますし、責任は重大だと思います。個人的にも存じ上げている方々がメンバーにいらっしゃいますので、くれぐれもよろしくお願い致します。
◎全世代型社会保障政策議論は負担と給付だけではすまない
今更ながら全世代型社会保障という考え方は重要だと思います。子ども子育て支援は重要ですが、この分野の社会保障制度はフランスやドイツ、北欧や英国と比較してみると改善の余地というか、全く日本の制度対応も給付総額も見劣りします。したがって、子ども子育て支援を更に充実することが必要です。義務教育は親世代の所得に関係なく税金で賄われていますので、子ども子育て支援で所得制限をどのようにするかという議論は、制度設計上の根幹にかかわるはずです。
社会保障制度議論では、延々と負担と給付のバランスについて議論してきた歴史があります。年金や医療費の負担は膨大ですから、一方的に引き上げればよいということにはなりません。まして常勤労働者家庭の平均的年間所得と年金額や雇用保険給付あるいは最低賃金とのバランスに配慮する必要があります。18歳未満の人々への10万円給付問題で突然のように児童手当制度自体の仕組み自体に疑問があるかのような議論が展開されていましたが、制度は成立過程での議論の結果として機能しているので、成立当時の社会情勢を反映していると考えるべきなのでしょう。
このようなことから「社会保障制度は歴史的社会的産物」と学問的には理解されています。簡単に所得制限といいますが、家庭でサラリーマンの男性が一か所の会社から給与所得しかなく、その妻は家計補助的労働として年間100万円程度の所得しかない場合が圧倒的と考えられていた時代の産物です。単身世帯が急増し単親世代も増加傾向にあり、晩婚化と定年が延長傾向に変わった社会では、世帯単位の「所得」自体をどのように行政機関が把握するのかといった根本的課題があります。昔から言われているように個人商店など所得把握が難しい場合があります。
社会の変化は、全世代型社会保障のあり方を見直ししなければならない状況を醸し出しているといえます。明確に断言すれば負担と給付の議論だけでは結論に到達できなくなり、社会全体のバランスを考慮せざるをえないのでしょう。
◎気候変動やデジタルへ対応そして社会課題の解決へと
総理の所信表明演説の中で、かなり難しい国際状況で「数世代に1度の歴史的挑戦においても、日本の底力を示そうではありませんか」という発言がありましたが、それだけ状況は逼迫しており、日本の経済ばかりが社会自体が危機に陥っているという正確な認識があるのだろうと推測します。気候変動やデジタル対応は、日本経済の仕組みを根本的に再編しなければならなくなる大きな課題であるし、経済を含めた安全保障の課題は肌感覚として最新の注意が必要であろうことは、よく理解できました。しかしこれらの課題と同程度に社会が抱えているジェンダーやLGBTQあるいは差別・分断の危機的状況に対応することが重要だという前提が民主主義国家全体の課題であるという理解が必要なのだと思います。
何よりも全世代型社会保障構築会議に期待します。新しい民主主義化の新しい社会保障ビジョンを示して欲しいのです。
社会医療ニュースVol.47 No.557 2021年12月15日