パンデミックと経済を両立させる医療制度改革を新政権は確立せよ
労働省は8月28日午後6時から、第8回「医師の働き方課企画の推進に関する検討会」を開催した。前回が3月でしたので、休眠状態が解消されたのだろう。新任の迫井正深医政局長と熊木正人総務課長の仕事始めのような会合なので、エールを送りたいと思った。このコンビは、31日の医療従事者の需給に関する検討会第35回「医師需給分科会」も主催している。
これらの検討会は、日本の将来の医療の方向性を決める重要な会議だと思う。24年度に開始予定の医師の時間外労働の上限規制、原則年960時間、地域医療確保の暫定特例水準と集中技術向上水準は、特例で1860時間になる、ことについては一応理解しているつもりだ。しかし、「追加的健康確保措置における副業・兼業」等の規定が、何度読んでもよくわからない。
これは、労働政策審議会労働条件分科会でまとまった「兼業・副業等の労働時間についても管理しろ」ということらしい。つまり、病院に勤務している医師が、別の医療機関などで兼業・副業しており、そこで残業した場合も、病院が残業時間を管理しろということだ。医師も一般労働者なので、この制度が適応されることになる。27日、労政新分科会がまとめた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、兼業・副業先での労働時間を通算管理すること、労働時間の把握は労働者からの申告等で把握することが盛り込まれている。
趣旨は、外部での労働時間も常勤として所属している病院で管理しろ、ということであろうが、運用面で困難が予想される。
◎地方の医師不足が医学部の地域枠の明確化で解消する
31日の「医師需給分科会」では、各医学部が実施している「地域枠」について、卒業後地元で9年以上働くことを、大学受験出願時に書面で同意することが決定された。大都市部への医師の集中と地方都市の医師不足は、何もしなければ永遠に解消されないので、オールジャパンの大問題だと思う。また、地域医療構想などを進めるにあたり、医師確保ができなければ絵に描いた餅になりかねないので、極めて重要なイシューだ。
良く知らなかったが、この「地域枠」の定義が曖昧で、義務年数がバラバラだったという実態があり、全国で統一される意義がある、ように思う。多くの都道府県では、地元で一定期間医師として働くと返済が免除される奨学金制度を設定しているが、卒業時に返還して他の都道府県に就職したり、前期臨床研修が終わると返還して移動する例も5%弱あるようだ。会議の資料には「離脱する際には、都道府県・大学・本人・保護者もしくは法定代理人の同意が必要である旨を明示することが望ましい」とあるが、家族の介護、体調不良、結婚などの事由例を眺めていると、金銭で強制するようなことには限界があるように思う。
地元の地域医療に貢献したいと医師を志し、現在も地元で医師として貢献されている方々を沢山存じあげているので、医師を志す人の多くが地元で貢献したいと考えていると思う。本来、入試試験の成績だけ入学させると、他都道府県からの志願者が有利な大学医学部があることを、わたしは知っている。しかし、逆に他の都道府県の大学から地元に戻って地域医療に貢献している医師もいるわけである。だから、9年の勤務を社会的に強制して、地元の受験生を「地元枠」として入学させるのであるので、入学時に地元勤務を書面で同意することは、必要だと思う。甘いのかもしれないが、地元で育ち、その都道府県の「地元枠」での受験生を、世の中全体で暖かく迎い入れたいと思う。
◎医療制度改革等を思い切って1年間先送りにしたらどうか
医師の働き方改革も医師需給も重要なことは、十分理解している。しかし、今はパンデミックとの戦いのさなかなのだ。非正規の労働者は数万人の規模で雇止め、新規の職はないし、失業保険申請者は軽く5万人を超え増加傾向が顕著だ、これから本格化するのは零細小規模事業者の大量倒産という現実だ。病院をはじめ医療機関も例外ではなく、経営継続性に赤信号が点滅している。ほとんどの民間病院は、年末の賞与を満額払えないという状況に陥っている。本当に有効な対応をしないと大学病院であろうが公立病院でも2度と立ち上がれないほどの経営的打撃を受けている。
外来患者さんをはじめ、患者さんが減少したことは事実で、どうも元に戻りそうもないという気配を、多くの職員が肌で感じ始めている。観光・旅行業、飲食やエンターテインメント業界は「完全に元に戻ることはない」「来年の3月以降も改善しなければ廃業しかない」と現実的な判断を示し始めた。この状況でも、活路を開こうとする人もいるし、経済のファンダメンタルズのすべてがだめになったわけではない。だが、どう考えても、あと半年か1年先にならないと根本的な改善は望めないという空気が支配している。それでも、できる限り経済の立て直しを進めなければならないという難局面だ。
スケジュール化されてきた医療制度改革は重要なことであると痛感しているが、思い切って1年間先延ばしすると、どのような悪影響があるのか、真剣に議論する場面なのではないだろうか。もっとはっきりいえば、先延ばしするべきだと思う。
社会医療ニュース Vol.46 No.542 2020年9月15日