夢なきところ民は滅ぶといいますが社会保障分野のデジタルを最優先‼
毎日の暮らしの延長線で起こる変化さえ正確に把握できていないような気になることがあります。多分、普段はみたいモノや、ききたいコトだけを見聞しているので生活に支障はないのですが、突然、何がなんだかわからないモノやコトに遭遇すると、何とか理解してみたいと右往左往するのですが、結局、短時間に理解することはできません。
そんな時、忘れるか、諦めるか、気にしないかという対応と、何とか調べまわったり、学び直したり、とりあえず宿題にしておくという選択肢があります。別の言い方をすれば、知らないことは知らないのですから、生活や仕事に支障がなければ知らなくても生きていけます。ただ、どう考えても知らないでいると生命や財産に不利益が被る恐れがあると判断できれば知る努力をするはずです。ボヤ―とそんなことを考えていると、わからないことに囲まれているような気にもなりますし、わかっていることのほうが少ないのかもしれないと思い到ったりします。
こんなことでは世界の急激な変化の全てを理解できるわけはありませんが、そうかといって世界はつながっているわけで「関係ない」とはいえませんよね。1頁の「ソサエティ5.0」とか「第4次産業革命」の話は、前月号に書きました「労働生産性」のことを調べている過程で、どのような関連性があるのかを整理したいと考えはじめて作業した副産物です。
わたしの関心は、17年になぜ「生産性革命」などということを突然のように安倍首相が発言したのかについて状況証拠を並べて知りたいと考えていたからです。16年1月にスイス・ダボスで開催された第46回世界経済フォーラムの年次総会(通称:ダボス会議)の主要テーマとして「第4次産業革命の理解」がとりあげられ、議論されたのです。この会議後、通産省をはじめ日本中が「第4次産業革命」ブームみたいに大騒ぎになりました。
政府の政策というのは、誰でも、確実な情報を収集し、慎重に吟味し、実現可能性や費用対効果なども勘案して、創り込んでいくものだと考えているのではないかと思います。しかし、流行がありますし、世界を取り巻く環境要因も勘案しなければならず、政治的決断には絶えずリスクが伴います。そのような前提から制度・政策議論の展開を考えていると、突然「いってみてるだけ」「官僚のヤッター感自己満足」「つじつま合わせ、言い訳対応」としか考えられない政策判断がなされることがあると考えられます。為政者たちをチェックできるのは選挙民だけなので、注意深く観察することが大事です。
◎夢なきところ民は滅ぶされど貧乏は解消せず
OECD加盟国の中でのGDPを比較すると日本が長期にわたり順位を下げ続けているとか、労働生産性を国際比較すると一向に向上しない状況は、日本経済の成長はカメの歩みで、他の国々に追い越されているのだというように認識されているのでしょう。これまでは生産年齢人口は減り賃金は上昇しないものの、物価も安定しているのでなんとか暮らせていけただけなのかもしれません。21年度の国の一般会計当初予算の歳入106兆円のうち、公債費が40%を超え、補正予算ではさらに22兆円が公債費として積み上げられているのです。緊急の感染症対応なので、仕方がない面はありますが、構造的問題は何も解決されていません。
このような状況では「第4次産業革命」に期待する以外方法がないことはよくわかります。カネもないしヒトもいない、企業の取り組みは本格化しない、何といっても世論の盛り上がりもなく、政権への支持率が上昇するわけでもないのです。AIは重要ですが、日本が最先端を進んでいるわけではなく、ICT技術はまだまだ開発の余地はあるのです。
夢は大切ですし、夢がなければやりきれないという局面もあります。しかし、夢だけでは国民生活の向上は達成しません。新しい世界になれば、多くの人々はより幸福になるのでしょうが、現在の産業構造は大転換するはずです。例えば、完全な自動運転が達成されれば、運転という仕事はなくなってしまうのです。つまり、技術的発展の「光」は、必然として「影」を生み出すのですから、このような事態に対応できる教育システムの内容やセーフティーネットとしての社会保障全般の将来も明確に示しながら、なるべく多くの人々の理解を得る努力が必要だと思います。
◎医療や介護のデジタル改革を政策として最優先して欲しい
前月号でも述べましたが介護分野のICTを活用した業務改善やロボットを活用した業務負担の軽減については、政策展開する方向性が明らかにされています。また、医療・ヘルスケア分野は、AIの基盤整備やデータの利活用の観点から重要な産業分野として、政策的にも注目されてきました。
臨床データや健康管理に関するビックデータや医療機器のIoTデータをAIと結びつけることによる各種の医療技術革新などには、大きな可能性があります。オンライン診療が2年前に診療報酬上評価され、診療報酬改定時にも高く評価する方向性が示されていますが、当初の報酬設定が臨床現場から反発されたこともあり、政府の明確な政策として位置づけられていなかったのではないかという疑問があります。
ICTやIoTを活用して、将来的にはAIに結びつけるという国家戦略が明確であるなら、歳出の3分の1を占める税が投入されている医療分野や社会保障分野の仕事の技術革新を促そうというような国家戦略は考えられないのでしょうか。
DXに必死で取り組んでいる病院はいくつかあります。介護の生産性向上策としてICTやロボットの導入に熱心な介護事業所や介護保険施設もあります。しかし、財務的に余裕もないのに懸命に取り組んでも医療や介護組織のこれら経営者には「いずれ政府はハシゴを外すのではないか」とか「旗振りばかりしているが経営を改善できる原資となる診療報酬や介護報酬を無理やり引き下げようとしているのではないか」という一抹の不安がよぎっているようにしか、わたしにはみえないのです。
社会医療ニュースVol.48 No.560 2023年3月15日