医療従事者の働き方改革推進の掛け声だけでは徹底したDX化を先行させなければ実現しないぞ
医療・介護・福祉サービスについてのデジタル対応については、待ったなしなのではないかと焦っています。DXについては専門家でもないわけですが、例えば医師の労働時間を短縮しろといわれても、医師が長時間働くことで何とか日本の医療サービスは確保されてきた側面があります。ただ労働法制で強権的に「働き方改革しろ」といわれても、どうにもならないのではないかと思い込んでしまうのです。
大学院の院生や修了生の病院勤務の医師は、ほとんど8時前には病院に到着しています。18時には病院を出られますと言っています。これで週休2日を繰り返すと、完全に「働きすぎ」ということになります。8時から17時までが守られているかチェックしなければなりません。8時半から17時なんてことがありますが、毎日18時はブラックだといわれているのです。
全米の全てがどうなのかわかりませんが、病院の手術室の手術開始は午前7時というのが多いと思います。18年前の体験でしかありませんが、手術室のナースの勤務終了時間は15時か15時30分というのが通常だという説明を複数の病院で受けました。別に医療従事者が特別なわけでなく、製造業やサービス業でも同じようなことが起きます。都市部のハイウエーは6時と16時が大渋滞だったのです。
日本は長時間労働が常習化していますが、東海岸や西海岸で働いている人は「8時間働いたらくたくたでそれ以上働くなんて無理」とよく言っていました。17時には家に帰り、庭の水まきをしたり夕食の支度をしたりして、毎晩家族全員で食事をするという生活なのです。このパンデミックで日本でも「時間外会合」「残業」「接待」「飲み会」が急激に減少しているのではないかと思いますが、長時間労働はどうしても「労働密度」が落ちますので、効率的ではありません。
医療従事者の働き方改革については、各種の議論があるものの変更されることなく、もうしばらくすれば「普通」のことになるのではないかと考えています。ただそれを実現させる方法論として病院のDX化を強力に推進する必要があります。病院の情報システムに関しては、なんとなくしか知りませんが、最先端グループと電子カルテ未導入な病院があり、DXに対する取り組みは十分といえる状態ではなく、手探り状態でゆっくり進んでいるのではないかという印象です。
最先端病院は、電子カルテをモバイルでやり取りできるだけではなく、職員間のコミュニケーションも全てiPhone上でやり取りできるので、医師は病院以外の場所から救急搬送された患者さんの映像や臨床データをみることも、カルテの確認もできます。職員間の情報交換もリアルタイムなため、有効で効率的であり、医師の勤務時間を短縮化することにも寄与できるのです。
◎DXのない働き方改革では医師の勤務時間は短縮困難
医療従事者の働き方改革なのだから、それまでの勤務時間は短縮しろと言えば、ただちに短縮できると考えるのは間違いではないかと思います。まずは啓蒙段階、工夫段階、試行段階など経て進められていますが、同じ医師数で勤務時間だけを短縮することになれば、医療サービスの質の低下が起こらざるをえなくなります。
そこで、短縮可能な時間は、通勤時間、確認時間、コミュニケーション時間、ミーティング時間などです。特に、帰宅後「病院からの緊急呼び出し」というのは、DX化が進めばモバイル上で処理できるかもしれません。特に、患者さんの状態を遠くからモバイル画像で確認できれば、再度病院に行かなくても良いケースが多いということのようです。
これは一例に過ぎないといわれればそれまでですが、このようなことが可能なのは病院DXが進んでいるからです。実際、DXが進んでいない病院の中堅の臨床医に、電子カルテのモバイルで対応の話をしてみると、積極的に活用したという意見が大多数です。重要なのは24時間システムを利活用できるということで、通常の勤務時間内でも大活躍し、労働負荷が軽減したという医師以外の病院職員の意見もあります。
生産年齢人口は、今後益々減少しますので、これまでと同じ方法で同じことを短時間で行うことには、明らかに限界があります。今までの業務手順や課業(タスク)を見直すことにより勤務時間が減少できるかもしれません。しかし、どう考えても働き方改革は、働いてもらう人々の負荷改善なのですからDXが必要不可欠です。逆に、DXを活用しない勤務時間短縮は至難の業だと思います。
◎DXの費用負担について明確な方針を示すべきだ
今、電子カルテの統一規格だとか低廉化について、各方面で議論されているのだと思います。ただし、電子カルテのモバイル化を前提として、どこまで議論が深められているのかについては、よくわかりません。
政府はDXを強力に推進していますが、その費用の捻出についてはすっきりしません。中小企業向けとか、大都市圏以外の府県などに関する通産省関係の補助金も多数ありますが、病院DXに関しての大型の補助金というものはなく基金などを活用する方向で調整されています。あらかじめ用意されている基金については、どちらかといえば民間部門より公的分野が優先的にされているのではないかと思います。
行政分野のDXは緊急課題だと思いますが、病院DXについて先駆的に取り組んでいるのは民間病院で、公立病院のDX開発が進められているという事実を確認できません。それゆえ、地域医療介護総合確保基金を活用する場合、公私格差が生じないよう地域全体のDXという観点から有効かつ効率的に配分することが大切だと思います。
その上で、病院DXを費用負担も含めて、国の重点施策として強力に推進して欲しいと思います。介護保険施設や事業者に関しては、システムを統一して、大量に安価なシステムを導入して、導入費用、ランニングコストの低廉化を求めることが大切だと考えます。
もちろん、DXに関しては診療報酬や介護報酬にも反映させない限り、推進できるわけがありません。
社会医療ニュースVol.48 No.561 2022年4月15日