令和2年10月現在の患者調査結果公表で全国の受療率の低下傾向は歯止めかからず

厚労省は6月30日、3年に一度実施される20年の患者調査の結果を公表しました。同年10月の入院1日当たり推定患者数は121万人強、外来は約714万となり、減少傾向に歯止めがかかりません。65歳以上の入院患者は74.7%、外来患者は50.7%に達し、入院患者の4分の3、外来患者の半分は高齢者ということになりました。これを75歳以上でみると、54.8%と29.1%という比率になります。

推計患者数を人口10万人当たりでみた「受療率」は、入院が960、外来が5658でした。この受療率は24年前の96年以降、入院も外来も65歳以上でも長期的には低下傾向となっています。

3年前の受療率と比較してみると、入院受療率は7.3%、外来受療率は3.0%減少していますが、COVID-19の影響があったであろうことは想像できます。しかし、減少傾向というトレンドを考え合わせると、受療率の低下に対する感染症の影響はさほど大きくないように思います。3年間の傷病分類別受療率は、入院の新生物で10.7%、循環器で12.8%の減少となります。この現象の理由をCOVID-19の影響だと判断できる科学的根拠を見出すことはできません。

しつこいようですが傷病を21分類した傷病別大分類を眺めて比較してみると「XⅡ皮膚及び皮下組織の疾患」と「XⅢ筋骨格系及び結合組織の疾患」では入院も外来も総数も受療率が3年前より増加しているのです。理由は分かりませんが、どう考えても「感染症で患者さんが受診を控えた」というステレオタイプの考え方は、より慎重に再考する必要があるのではないかと思います。

◎病院の月間平均在院日数と月末病床利用率の年間傾向

もう何年にもなりますが厚労省の医療施設動態調査(各月末概数)と病院報告(各月末概数)を毎月みています。前者では種別・開設者別にみた施設数と病床数がわかります。後者は、病床種別ごとの1日平均患者数(各月間)、平均在院日数(同)、各月末病床利用率が3カ月遅れで毎月速報されます。直近5年間病院数も病床数も毎月減少していることはよく知られています。病院数も病床数も右肩下がりであることをしっかり理解する必要があります。その上で入院患者数も外来患者数も減少傾向が4半世紀近く続いており、人口減少社会では全国の病院数や病床数が増加するということはほとんどありません。

病院報告の一般病床の各月間在院日数と各月末病床利用率を4年間分並べてみると、つぎのことがわかります。平均在院日数も月末利用率も毎年5月に高くなり12月に低くなります。どう考えても5月は連休シーズンで在院日数が長くなりその分利用率が高くなりのでしょう。逆に12月はお正月に向けて利用率も在院日数も低くなります。

今、18年19年20年21年分の48か月分のデータを眺めています。各年12月末の一般病床病床利用率は順に62.0%、62.0%、57.4%、57.3%でした。各年12月の一般病床月間平均在院日数は順に15.9日、15.5日、15.8日、15.3日でした。確かに微減傾向だといえるかもしれません。病床利用率も平均在院日数も月ごとに変化します。4年間の一般病床月間平均在院日数は最長が20年5月に記録した18.8日で、最短が21年12月の15.3日です。わずかな差でしょうか?最長からみれば最短は約19%弱低くなります。

◎ワクチン4回接種完了後でも在院期間も利用率は変化なし

以上みてきたように全国の入外受療率減少に歯止めがかからず、入院外来とも患者数は増加傾向にないことは明らかで、むしろ減少傾向のトレンドを変化させる要因を発見することはできないように思うのです。本年1月から3月の一般病床病床利用率は順に71.2%、69.3%、68.3%でした。ついでに療養病床の利用率は順に85.9%、85.1%、85.43%でした。

突然、療養病床の利用率を示しましたが、療養病床は利用率90%以上ないと経営が難しく、85%以下になると継続できない危機に見舞われます。経営的に考えて一般病床で70%以下の利用率というのは経営改善をしない限り、資金的に立て替えはできないのではないかとわたしは考えてきました。

常日頃世の中先のことはよく分からないと申し上げているので、この先どうなるかなどということは申し上げにくいのですが、手元にある資料を眺めてみると何かが違うように思います。

今後、感染症の発生率が低下し、重症化率は高まらないことは明らかな事実です。では、感染症の脅威が軽減されると状況は以前に戻るのですか?少なくとも在院期間も利用率も大きな変化がなく、減少傾向が続くと判断する時期に来ているのではないでしょうか。

◎有効な医療費低減政策を展開できた国はないのだ

財務省や政財界のリーダーたちは「医療費は増加して負担ができなくなる」などと心配しているようですが、まさか「減り方の速度が遅いのが問題」ということであれば、今までの政策展開に間違いがあったことになりますので、文句ばかりいっていないで明確で具体的な政策方針を決心する必要があるのではないでしょうか。

昨年12月、米国のメディケア・メディケイドセンターは、「20年の医療費は前年度比9.7%増と公表したと、ジェトロの「ビジネス短信12月27日」は伝えました。COVID-19で医療費が急増したことは事実ですが、日本の医療費に与えたインパクトは比較的軽微だったのです。

社会医療ニュースVol.48 No.564 2022年7月15日