日本慢性期医療協会武久洋三先生会長御退任記念講演会が開催です

去る6月30日The Okura Tokyo 2階オーチャードホールで「退任記念講演会」が開催されました。出席者は日本医師会長松本吉郎先生はじめ各病院団体・医療団体の会長が多数参集しました。この30カ月間、病院団体の集合会合は全て中止かWebでしたので、とても新鮮な感じでした。

日本慢性期医療協会の武久洋三先生は14年にわたり会長を務め、この日退任しましたが、病院団体の会長職が「退任記念講演会」を行うことは異例といえば異例です。それでも武久流を貫き通した14年間の実績は、医療界に大きな足跡を残しました。

講演は「06年に医療区分制度が導入されるまで、療養病床に対する診療報酬上の評価は、どんな病状の患者も検査・投薬・注射・一部の画像診断・リハビリテーション・処置を包括した一律点数だったので、検査や処置の少ない軽度の患者を優先的に入院させていた傾向がありました。それが06年の診療報酬改定で急性期に7対1看護の創設と療養病床への医療区分の導入を強行しました。それまで軽症者ばかりを紹介してくださいと言っていた療養病床の現場は、一転、踵を返して、逆に重傷者をどんどん紹介してください、と、重症患者を積極的に受け入れるようになりました。正に笑い話のような変身をしたのです」から始まります。

その上で、将来の医療提供体制の在り方については、22年度改定で導入した急性期充実体制加算などを算定できる急性期病院以外は、急性期後の患者や在宅患者、慢性期患者の急変時対応などを行う「地域多機能」の病院として役割を果たすべきだという、小気味よい持論を展開していきます。

現在の急性期病院での治療の過程で、栄養管理や脱水が軽視されていることに関して、いつものようにデータを示して強烈に批判し、リハビリテーションや生活介護に関しても急性期で十分に行われていないことを問題視しました。特に「出来高払い方式から包括方式の基準リハビリテーションや基準介護が急性期病院にも必要」な理由を明確に主張しました。

核心は「療養病床は重い病態の患者の約半数を治療して在宅や施設に返していることに誇りを持つべきだ」という主張です。締めくくりは「良否な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」という定番のシメです。

◎会も事業も立派に成長本当にご苦労様でした

日本慢性期医療協会の正会員は1138件だそうです。武久先生の平成医療福祉グループは、四国、中国、関西、関東で病院27病院、11老健施設、27特養、看護やリハビリテーション学校3校を基盤に、医療・介護の総ベッド数9000床を超え、職員数15000人までの大組織に成長しました。わたしは30年間、その航跡をみつめてきました。

良くいえば決断力とリーダーシップ、なんといっても抜群の行動力と変わり身の早さ、少し悪くいってよければ「人たらし」。ただ「たぐいまれな事業家で、医療界ではめずらしい抜群の経営センスを兼ね備えた臨床医」であり「日本の医療介護の将来を真剣に議論した論客」であったことは、事実で歴史に深くきざまれると思います。

わたしからは、感謝と御礼をこめて、本当にご苦労様でございましたと申し上げる以外の言葉がありません。

◎新会長に橋本康子先生 中川翼副会長顧問就任

この講演会に先立ち日本慢性期医療協会は通常総会を開き、新会長に橋本康子先生を選出しました。副会長は池端幸彦先生、安藤高夫先生、矢野諭先生が続投し、井川誠一郎先生が新任され武久先生は名誉会長に就任。副会長を長年勤めあげた中川翼先生は顧問になられ、筆頭常任理事兼事務局長には富家隆俊先生が就任されました。

橋本新会長は、香川県三豊市にある橋本病院の理事長で、大阪の千里リハビリテーション病院も経営されています。その上、東京にもリハビリテーションクリニックを開設するという行動派経営者で、各種審議会委員もお務めです。武久会長の後継指名みたいではありますが、慢性期医療、慢性期リハビリテーションにかける情熱は素晴らしすぎです。穏やかですが着実なリーダーシップに定評がありますので応援します。

さて、顧問に就任された中川先生ですが、高名な脳外科学者で「CT時代以前にクリッピングをしていた」「脳死、医療倫理はライフワーク」という79歳におなりになった「慢性期医療の良心」(失礼ながら小山の造語)の先生です。渓仁会手稲病院の故加藤隆正理事長に誘われ大学から民間病院の脳外科医として活躍され、その後定山渓病院の院長を長年務められました。

介護力強化病院連絡協議会時代加藤隆正先生が会長を務めた関係から日本療養病床の副会長そして日本慢性期医療協会副会長を20年以上続けてこられました。心臓移植、脳死判定、緩和医療をはじめ医療倫理などに関して研究され、講演やシンポジュウムを通じて、慢性期医療を支える皆様への教育や啓もう活動にご尽力いただきました。日本慢性期医療協会の先生方からも「一目置かれる医師」でありつづけ、個人的にも何度も直接ご指導いただきました。敬意と感謝を捧げさせていただきます。

◎慢性期医療の質が高いと急性期がしっかりする?

虎の威を借りる狐のようですが、わたしは研究者として悲惨な現実に直面したことから「これが宿命か」と思い立ったことが何度かあります。はじめは、40年前の「三郷中央病院事件」です。ご存じない方の方が多いと思いますが「乱診乱療の算術悪徳病院」の代名詞。元祖「点滴ズケ、検査ズケ、検査ズケ」病院などと陰口をたたいていました。厚生省病院理研究所という小規模の組織で、所長から「君は老人病院研究してみなさい」と突然言い渡されました。

人生わからないもので、最先端の急性期病院のマネジメントを研究する研究者はいましたが、長期慢性期病院なんて研究する人が珍しい時代でした。それ以降、「慢性期医療の質がしっかりすれば、急性期病院のマネジメントがしっかりするのではないか」という妄想の上で、何とかやってきました。最近は、「慢性期医療は最重要だ」などといえるようになりました。

社会医療ニュースVol.48 No.564 2022年7月15日