高度急性期病院というのは総合入院か急性期体制加算を算定済病院のこと?
どこかで聴いたことがある呼び名に「高度急性期」がありますが、どうも正確に理解できないままでいました。行政文書にこの単語が登場するのは「社会保障・税一体改革」の構想過程でのことで、医療法第30条の13に基づく「病床機能報告制度」が14年10月から施行されたことから医療の世界で使用されるようになりました。「特定の機能を有する病棟における病床機能報告の取り扱い」という文書の中では「急性期の患者に対して、状態の早期安定に向けて、診療密度が特に高い医療を提供する機能」を「高度急性期機能」と定義し、「該当すると考えられる病棟の例」として、つぎのように列挙しています。
「救命救急病棟、集中治療室、ハイケアユニット、新生児集中治療室、新生児治療回復室、小児集中治療室、総合周産期集中治療室であるなど、急性期の患者に対して診療密度が特に高い医療を提供する病棟」
医療従事者や病院の設計者などで、どこがどう違うのか正確に理解している人は少なくないかもしれませんし、ICUやNICUをご存じの方も多いのかもしれません。ただ、病床の機能や医療密度ということを病院外部の人が理解することは難しいかもしれません。あくまでも「病床機能」ですので、ひとつの病院内に複数の機能の病床があり、外から見てもどのような機能の病棟がどこに配置されているのかは分かりませんし、病院を利用する全ての人が理解する必要もありません。
一般論として「高度急性期機能」として思い起こすのは大学付属病院本院だと思いますが、設置基準で600床以上必要なので確かに高度な機能を発揮しているのでしょう。しかし、ICUやNICUなどの特殊病床は最大でも30%までで、残りは一般病床なのですから、どう考えても大学病院本院の全ての病棟が「高度急性期機能」だとは考えにくいのです。
ややっこしいのですが、病床、その病床が複数で組織されている病棟、そして1病棟以上で構成される病院という区別があります。したがって、高度急性期病床とか病棟という呼び名はありますが「高度急性期病院」という名称は法律にはありません。全ての病床が高度急性期病床で構成されている病院があれば、高度急性期病院と呼称できるかもしれません。蛇足ですが、高度急性期機能の病床を多数配置している600床を超える民間病院も公立・公的病院もあります。
病床機能報告制度は今でも続いています。各病院が自らの判断で病床機能を報告する制度ですので、「本院は全ての病床が高度急性期機能」と報告してくる病院もあります。例えば、大学病院本院やそれ以外の大病院が報告している場合です。報告義務があるだけなので、どのように報告しても行政から修正を求められることもありません。このような病院が自称「高度急性期病院」といいだしていることから、何が何だか収拾がつかなくなってしまっていました。
◎高度急性期のイメージはそれぞれで選択は自由
「大病院志向」という患者側の診療志向があります。確かに大病院でしかできない手術や検査もありますが、全ての患者が大病院の外来受診する必要はありません。本来は、救命救急センターでなければ対応できない救急患者や他の医療機関から専門紹介外来として受診するというルートが奨励されます。大病院に患者が集中しないための方策は選択療養で病院の決めた高額の「初診料」を全額自己負担するという仕組みは経済的対応にすぎませんが、たとえ1万円払っても大病院がよいという人々には効果なしです。
医療は医師と患者の信頼関係が基本ですが、大病院志向というのは「大きい病院の方が間違いないだろう」という推定が動機であると考えられます。ただ、フリーアクセスで、窓口で高い初診料を支払わせるという施策は、どう考えても有効な施策ではないように思います。
つまらないことですが「高度」の逆は「低度」あるいは「中度」です。たいして支払う金額が違わないのであれば「高度」の方を選択したいのかもしれません。何が「高度」かというイメージが人それぞれで、患者はそれなりに選択しているのでしょう。
◎総合入院か急性期体制加算を算定しているか
22年4月の診療報酬改定で「急性期充実体制加算」という点数が新設されました。7日間までは1日当たり460点算定できるというものです。主な要件は、急性期一般入院料を算定し、24時間の救急医療を年間救急搬送患者が2000人以上あり、悪性腫瘍手術か腹腔鏡年間400件以上、心臓カテーテル法手術200件以上、消化管内視鏡手術600件、外来腫瘍化学療法1000件以上のうち4つ以上の満たすことなどです。なお、300床未満の病院の場合は、計算式が別に示されています。
これとは別に08年から登場した「総合入院体制加算」という点数も見直されました。この加算は、「十分な人員配置及び設備等を備え総合的かつ専門的な急性期医療を24時間提供できる体制及び医療従事者の負担の軽減及び処遇の改善に資する体制等を評価した」ものです。14日間で3360点算定可能です。
今回の報酬改定では、このどちらかを算定できるか大学病院本院などの特定機能病院を「高度急性期病院」だといいたいのではないかと勘ぐっています。病床とか病棟というより、この方が患者にはわかりやすいかもしれないからです。
社会医療ニュースVol.48 No.565 2022年8月15日