高度急性期機能を担当する特殊病床は最大でも9万床程度で一般病床の1割
総合入院体制加算の要件として「救命救急センター又は高度救命救急センターを設置している病院」で「全身麻酔による手術件数が年800件以上であること。また、以下の全て満たしていること」があります。
ア】 人工心肺を用いた手術及び人工心肺を使用しない冠動脈、大動脈バイパス移植術(年40件以上)
イ】 悪性腫瘍手術(400件以上)
ウ】 腹腔鏡下手術(100件以上)
エ】 放射線治療(体外照射法)4千件以上
オ】 化学療法1千件以上
カ】 分娩件数100件以上
改めて診療報酬は細部までなんでも決められている複雑怪奇なものです。例外規定はあるものの、この全てをクリアしていないと「総合入院体制」が確保されていないことになります。この数字には当然何らかの根拠があるのでしょうが、300床未満の病院が総合入院体制加算を算定するのは至難の業です。
実は「急性期充実体制加算」では300床未満の病院でも算定可能ですが、条件を全てクリアできるのは300床以上の一般病院だけに限られるのではないかと想定できます。多分、300床以上の一般病院は1600病院程度であるので、病院の20%程度に過ぎません。その全てがどちらかの加算を算定できるわけではありません。
厚労省の公表データでは、救命救急料算定病床は6411床、ICU5211床、HCU5412床、計17034床です。人口10万人当たりで比較するとドイツの2分の1、合衆国の3分の1弱しか整備されていない現状です。日本は病床が多いといわれていますが、高度急性期機能を担える病床はドイツ以外のヨーロッパ先進国並みといえるのかもしれません。
救命救急やICU/HCUの病床数に脳卒中、総合周産期、小児関係のICUを加えても2.5万床に過ぎません。これ以外の大学病院本院などの特定機能病院の一般病床を合計しても8.4万床です。これら全てが高度急性期だとしても日本の一般病床数は89万床弱なので、1割に過ぎません。正確な数字ではありませんが一般病院の1割、つまり700病院程度だけが「高度急性期病院」だと宣言できる時代になりつつある、と思います。
◎高度急性期を担える公立病院は2割ない
地方独立法人を含む都道府県立・市町村立・複数市町村の一部事務組合立の公立病院は、年々減少し、19年時点で857病院です。このうち人口30万人以上の行政区に所在する病院は139病院16%強に過ぎません。ついでに、人口10万以下の市町村にある公立病院は65%強です。特に、人口3万人未満にある病院は30%強あります。
北海道中空知医療圏に砂川市立病院498床があります。砂川市は人口1万6千人程度ですが、病院の診療圏は人口約10万人といわれています。名誉院長の小熊豊先生は全国自治体病院協議会の会長としてご活躍いただいています。この病院は、紛れもなく「高度急性期機能」を有しており、中空知という広大な面積に住む地域住民の命を守っています。ただ、砂川市立病院は、全国ではマレな公立病院で、診療圏人口が30万人以下で「高度急性期機能」を存分に発揮できる病院は僅かにすぎません。
大都市部の公立病院を批判する人もいますが、青森の大間病院48床、外ヶ浜中央病院44床、三重の志摩市民病院90床、そして多くの島で地域医療を確保している公立病院は、住民のライフラインであり、病院がなくなってしまった市町村は急激な人口減少が起き、崩壊の危機にさらされます。もちろん民間病院でへき地医療を支えている病院もあります。大都市部大病院のことしか理解できない人々は、日本の医療を理解できないでしょう。
ただ、公立病院が頑張ってくれたとしても、公立病院の最大2割のみが「高度急性期機能」を担えるに過ぎないということを明確に理解して欲しいのです。
◎高度急性期機能は欲しいが基本は地域多機能病院だ
パンデミックで医療崩壊とか医療逼迫だと報道されましたが、長年の政府の低医療費政策は、日本中の病院の経営体力を低下させてきましたし、災害時の対応について準備が十分でなかったことは明らかです。病院数も病床数も減少し、その上人口減という深刻な事態が、誰の目にも明らかになりつつあります。そこで、日本の病院をどうするのかということについてパーパスも戦略も示せないのは、結局、日本の医療を正確に理解しようとしてこなかったことが原因なのではないかという疑いが、ぬぐえないで苦しみます。
まだ確定された呼び名ではありませんが「高度急性期機能病院」という高度急性期のみを担当する病院は必要だと思います。医師や看護師をはじめとした医療従事者の確保とともに、24時間365日3交代等のシフト制を確保する必要があることは、よく理解できたと思います。また、このような病院は、通常、平均在院日数は7日以下とするべきで、何しろ外来患者の一層の制限と病病間連携を徹底する強力な政策を展開するべきだと思います。地域にとって通常の生活で必要なのは、約90%の患者の治療は自院で完結し、それ以上の高度急性期機能が必要な場合にはより高度の急性期機能がある病院にタイムリーに転院させることができるシステムを確保することだと思います。
いいたいことは、このようなことを実現させるには地域多機能病院として外来、入院、検診、往診、訪問看護をはじめとした在宅ケアの提供により、認知症や終末期とともに生きる人々のため活動する病院なのだということです。だから、必要時には
適時適切に高度急性期機能につないで欲しいし、日常生活場面では地域多機能病院として様々なニーズに親切丁寧に対応して欲しいと願うのです。
さらに、200床程度の病院が急性期のみに対応し、一般病床の入院基本料を算定する病院は、経営的に難しいです。地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟、疼痛緩和病棟あるいは療養病床などを組み合わせる、いわゆるケアミックス型の病院を目指すべきだと思います。このような病院以外を「なんちゃって急性期スタンドアローン病院」と命名してみていますが、経営的に展望は開くことができにくいのです。
社会医療ニュースVol.48 No.565 2022年8月15日