政府は社会保障制度の制度疲労を検知して早急に明確なビジョンを示すことが必要だ

10月3日に臨時国会が開かれ、岸田首相は所信表明演説の冒頭部分で「今、日本は国難ともいえる状況に直面しています」と述べました。経済政策面では新しい資本主義の旗の下で、「物価高・円安への対応」「構造的な賃上げ」「成長のための投資と改革」の3点が経済政策の重要分野として掲げられました。

第1の物価高・円安への対応では、9月に政府が決定した物価高対策に加えて、来春に電力料金が大幅に上昇する可能性を踏まえて、電力料金急騰の激変緩和制度を創設する考えが改めて示されました。

第2の構造的な賃上げでは、賃上げが、高いスキルの人材を惹きつけ、企業の生産性を向上させ、さらなる賃上げを生むという好循環が、機能していないという、構造的な問題があり、賃上げと、労働移動の円滑化、人への投資という3つの課題の一体的改革を進めますとしました。

物価高が進み、賃上げが喫緊の課題となっている今こそ、正面から、果断に、この積年の大問題に挑み、「構造的な賃上げ」の実現を目指し、看護、介護、保育をはじめ、現場で働く方々の処遇改善や業務の効率化、負担軽減を進めるとのことです。

第3の成長のための投資と改革では、社会課題を成長のエンジンへと転換し、持続的な成長を実現させる。この考えの下、科学技術・イノベーション、スタートアップ、GX、DXの四分野に重点を置いて、官民の投資を加速させるという従来の考え方を述べました。

社会保障については、新しい資本主義を支える基盤となるのは、老若男女、障害のある方もない方も、全ての人が生きがいを感じられる多様性のある社会で、全世代型社会保障の構築を進め、少子化対策、子育て・こども世代への支援を強化するとともに、女性活躍、孤独・孤立対策など、包摂社会の実現に取り組みますとのことでした。

経済対策も社会保障制度改革についても、具体的な内容は盛り込まれておらず、政府内部の議論が煮詰まっていないような印象を受けたのは、わたしだけでしょうか?

◎政権発足1周年記念日に北朝鮮ミサイル日本通過

世論の支持を受けて誕生した岸田政権が、旧統一教会や国葬あるいは物価高などで支持率を失速させたことは、誠に残念です。国難に立ち向かうには、無用な政治問題を発生させず、俊敏に適切な決断を国民に示すことが必要です。内閣支持率と政府の俊敏な決断は、裏表の関係にあると思います。

演説の中で首相は、いわゆる「反撃能力」含め、国民を守るために何が必要か、あらゆる選択肢を排除せず現実的な検討を加速します。あわせて海上保安能力の強化にも取り組みますと、述べました。安全保障、特に、国防のリアルは短期間で準備できないことは、十分理解しているつもりです。社会保障も長年の議論と国民連帯が前提ですので、10年先をみた国のかたちを画けないと制度改革はできません。国家保障とは国防のことで、社会保障は戦禍の中から英知を集めて将来の社会生活の困難を「ゆりかごから墓場まで」保障することを実現させてきたのです。歴史と現実を正確に踏まえて、果敢に決断し物事を進めなければ、全てが後手後手になり取り返しできない失策になる危惧を、わたしは禁じ得ません。

岸田政権発足1周年記念日でもある翌4日朝、北朝鮮から弾道ミサイルが発射され、Jアラートが発動しました。だれもが身の危険を強く感じたはずです。経済的状況やその国の人口構成は、総合的な国力に影響します。今、日本の国力は、半世紀前の状態に引きもどされ、少子超高齢社会は将来の基盤を脅かしています。わたしたちは、現実を直視して、自然環境への負荷を低減し身の丈に合った生活を営み、それでも次の世代の人々に最善のレガシーを残すことが必要なのではないでしょうか。

◎社会保障制度改革は本気なのでしょうか

最近、治山治水分野や道路・橋、下水道や送電設備などの基本的インフラの老朽化のニュースが多くなったように思います。インフラは絶えず保守点検し一定期間後には再構築が必要です。手抜きし放置すれば、いずれ大惨事が起きる危険があります。

医療や介護あるいは福祉の仕事は、地味かもしれませんが人々のライフラインを全国各地で守っています。これらのライフラインの老朽化や欠損は、命の問題なのです。

今、社会保障制度全体が安全に機能しているわけではありませんし、制度自体の制度疲労がないわけではありません。そうであるから全世代型社会保障の構築の議論を進めているのでしょう。

100年近く前から「疾病と貧困の悪循環をどのように断ち切るのか」とか「子ども、働けない高齢者や障がい者などの人々の生活を社会全体としてどのように支えるのか」そして「その行政テクノロジーともいえる制度設計をどうするか」というトライ&エラーが各国で繰り返されてきました。

わたしたちは、今、将来の世代の家族や家族生活そのものの困難に対してどのような「家族政策」ともいえるものを展開するのかという岐路に立たされています。それは、単なる子ども、子育て支援などといった不足している家族機能を補うものではなく、日本の将来を画く制度政策議論なのです。このことを正確に理解して欲しいのです。

社会医療ニュースVol.48 No.567 2022年10月15日