結婚についての考え方も家族も変わる社会高齢者のSNS利用を含めて制度疲労を克服
厚労省は8月30日、22年上半期の「人口動態統計」の速報値を発表しました。上半期の出生数は前年同期比で5.0%少ない38万4942人でした。22年上半期の出生数は、前年同期比で微増だった1月以外の5ヶ月間で前年を下回っています。これにより、最少だった21年上半期の40万5029人より2万87人減少し、過去最少を更新しました。単純計算で考えると、22年の出生数は77万人を割り込み、76万人台にまで落ち込むのではないかと考えられます。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口(平成29年推計)」では、22年の出生数は約87万2000人との推計でした。今年の出生数予想では、わずか5年前の推計よりも最大で10万人程度少なくなります。社人研のこれまでの推計では出生数が80万人を割り込むのは33年とされていましたが、11年前倒しで減少します。この傾向が続くとすれば、推計出生数の減少は、その分65歳以上の人口比率を押し上げることになります。
人口推計値も単なる予想にすぎませんから、大騒ぎする必要はありません。しかし、出生数は、国の制度政策の基本的数字ですから、その予想が大幅に外れると前提条件が変更されるわけなので、注視する必要があります。
近年の出生数低下を社会的問題として指摘する人々は多いと思います。だからといって「少子化対策を充実して、何が何でも出生数を増やせ」などと真顔で主張する人々は、心情的な「産めよ増やせよ地に満ちよ」であれば決して害ではありません。しかし「政策的にどうしたら女性に子どもを産んでもらえるのか」などという霞が関的議論になると、なんか奇妙な雰囲気が漂います。基本は「産むかどうかは個人の選択の自由であり、何人に社会的に強制されるものではない」はずなのです。政策的にできることは「子ども・子育て支援」策というより、ヨーロッパ流の家族支援策あるいは国としての「家族」そのものを社会保障体系で明確化し、その価値観を前提に制度化する「家族政策」を真剣に議論する必要があるように思えてなりません。
◎社人研の独身調査結果から結婚・家族を真剣に考える
9月9日、厚労省の社人研が「令和3年国民生活基礎調査」の結果を公表しました。
この中の独身者調査~未婚者の結婚・出産に対する考え方~で、「いずれ結婚するつもり」と考える18~34歳の未婚者は、男女、年齢、生活スタイルの違いを問わず減少し、男性81.4%(6年前の前回:以下「前回」85.7%)、女性84.3%(前回89.3%)であったとのことです。
また、恋人と交際中の割合は男性21.1%で横ばい、女性27.8%で前回から微減で、未婚者の3人に1人は交際を望まないそうです。それでも、6割程度の男女が恋人(異性)との交際経験あるそうです。「女性のライフコース」の理想像は、男女ともに「仕事と子育ての両立」が初めて最多となりました。
結婚相手の条件は、男性は女性の経済力を重視または考慮するようになり48.2%(前回41.9%)、女性は男性の家事・育児の能力や姿勢を重視する割合が大きく上昇70.2%(前回57.7%)だったそうです。
細かい数字を羅列しましたが、今、わたしたちは「家族」についてしっかり考え、真剣に話し合う必要があるのだと気づかせてくれる調査結果だ、と思います。
基本的に「家族」は、国の前提であり、単位として扱われる場合が少なくありません。生活保護制度でも世帯単位原則がありますし、年金制度や医療保険制度でも「家族」を前提に制度が組み立てられています。
前ページに社会保障制度の制度疲労といいましたが、実は家族や世帯、結婚や出産という暗黙の了解事項であったものが、大きく崩れ去ろうとしているという現実を直視しなければならないのではないでしょうか?
◎高齢者のSNS利用状況を真剣に注視して欲しいわけ
9月5日に公表された情報通信白書「情報通信白書刊行から50年~ICTとデジタル経済の変遷~」を読んでみると、確かにICTとデジタル経済は国民すべての生活を激変させてきているという実態がよくわかります。ただ、60歳以上のICT利用者が増加していることは読み取れるのですが、70歳以上の利用状況についての詳細はよく分かりません。
総務省(2022)の「国内外における最新の情報通信技術の研究開発及びデジタル活用の動向に関する調査研究」によると、60歳から69歳まで何らかの方法でFacebook, Twitter, LINE, mixi, Instagram, SkypeなどのSNSを利用したことのある人は51%でした。またこの比率は20代で約75%であったことがわかりました。
また、LINE株式会社が7月22日に公表した〈調査報告〉「インターネットの利用環境定点調査(2022年上期)」では、日常的なインターネットの利用環境は「スマホのみ」の利用が最多で推移したこと、年代別では、60代が初の半数超えしたことが報告されています。
いろいろ調べてみると総務省の「令和3年度通信利用動向調査」では、SNSを利用している個人の割合は、ほぼ全ての年齢階層で増加し、特に60~79歳の各年齢階層での伸びが大きくなっています。利用目的では、「従来からの知人とのコミュニケーションのため」の割合が最も高いことがわかりました。
より正確に説明するとSNSの個人の利用状況は、全体で78.7%(前年度73.8%)となっています。60歳代では71.7%(同60.6%)、70歳代では60.7%(同47.5%)80歳以上で47.4%(同46.7%)でした。
この伸び率は、比較的高いと判断してもよさそうです。どうも「高齢者は面倒くさくてSNSは普及しない」という前提は崩れかけているのではないでしょうか。生活必需品なら普及しますよね。
社会医療ニュースVol.48 No.567 2022年10月15日