人口が減少している自治体の医療や福祉の確保の課題を軽視しないで欲しいのだ

厚生労働省が約4カ月遅れで毎月公表している医療施設調査と病院報告を毎月みています。直近の数字は22年9月概数というものです。まず、感染症の影響がなかった4年前の19年9月から数字を追うと、病院数は減少し、一般診療所数は微増です。病院の入院患者数も外来患者数も20年3月から急激に減少し9月ごろには落ち着いたものの、4年前の9月の水準に戻ることはありません。特に、病院の入院患者は約10%減少したままです。

病院報告の19年9月と22年の9月の数字と比較してみると、病院全体の外来患者は9月の1日当たり平均患者数で約2万、1.6%減少ですが、一般病床の平均入院患者は月間で7万6千人、12.7%減少しています。自治体病院を中心に多額の補助金が支払われたことにより病院経営が好転するという一過性の現象が起きましたが、病院の数字をみていると、患者数という点では病院経営は一部の高度急性期病院以外は長期低落状態が継続し、今後とも好転する兆しはみえません。

日本全体の病院を一緒くたにして数字をみていると判断できませんが、人口が毎年1%以上減少している地域と、減少しない地域、そして微増している地域ということで比較してみる必要があると思います。人口が微増しているのは大都市部で、実は多くの市町村で人口が毎年1%以上減少しているという事実に注目する必要があると思います。このような地域では、病院を維持することも、医療を確保することも、必要な福祉施策を展開することも限界です。

特に厳しいのは人口10万人以下の市町村です。複数ある急性期病院の全てを急性期病院として維持することは難しいです。それでも5万人以上の人口がある自治体であれば、何とかなるかもしれません。しかし、日本の市町村の6割程度を占める約千の自治体は人口5万人以下で、なんと1万人以下も約500もあるのです。何年も前から指摘されているにもかかわらず、人口1万人以下の自治体で生活している人口は、総人口の3%程度に過ぎないはずなので、関心があってもどうしようもないというか、平成の時代の市町村合併施策に何らかの理由でのれなかった結果とみなされているか、それとも合併する意思が住民になかったか、ただ置き去りにされたかなのです。

◎誰も置き去りにしないというなら現実をみよ

個人的なことに過ぎませんが、まわりで「誰も置き去りにしない社会」が大切だと考えている人々は少なくないし、間違いはないと思います。しかし、わたしたちは人口1万人以下の自治体で生活している人々を置き去りにしているつもりがなくても、そうしているのではないでしょうか。こうした自治体の医療や福祉の現場に直面してみると、なるほど「限界集落」なのではないかというラベリングをしてしまいかねません。人口の30%以上が高齢人口であることは珍しくなくなりましたし、人口1万人以下の自治体で病院があることはけっして稀ではありません。しかし、このような地域で介護や障がい福祉サービスを確保することは、難しい場合が多いのです。

各年齢階層別の死亡率、医療機関への受診回数、介護保険サービスの利用状況、各種障がいサービスの利用状況などを並べてみると、確かに格差が生じていることが分かるものの、その地域に生活する人々にとって、やむを得ないこととして納得されているのかどうかは分りません。現実を受け入れ諦めているのかもしれませんが、だからといって問題や課題を置き去りにするようなこと、つまりみてもみないようなふりをしていてはダメですよね。

◎医療過疎地で働きたいでも現実には困難です

変な話かもしれませんが「医療過疎地で働きたいと考えたことがある」という医師資格を有する人や医学生と話したことがあります。もちろん、今も医療過疎地で診療を続けている知人もいます。しかし、一度は過疎地医療に従事したことがあっても家族との関係で諦めるしかなかったという話も聞きます。理想と現実には差があることは理解できますが、医療過疎地で働きたいという医療従事者などを支援する仕組みや工夫はもっとあっても良いと思いませんか?

現在の医療政策議論で「かかりつけ医制度」が展開されていますが、正直いって理解できていませんし、何が目的なのかが不明でどう考えても政策意図というか、もっと単純化すれば動機が不純なように感じてしまいます。

医療費が増えてその負担が大変なことはよく理解しているつもりですが、その前に「医療過疎地で働きたい、でも現実には困難です」といっている数少ない医師達の声を正確に聴く必要があるのではないかと思います。

医療費負担を軽減させるために患者サイドのビヘイビアを変化させ、診療側を経済誘導して医療費が増加しない仕組みを作り上げるということを考えることは自由です。しかし、世界の医療政策の歴史的展開を調べてみれば、そのような政策が成功したと正当に評価されることはなかったのではないでしょうか。米国でのマネジド・ケアという医療費抑制のための各種手法は、技法ということでは発展しましたが、それでどの程度まで抑制できたのかどうかという政策的エビデンスがあるのでしょうか?

社会医療ニュースVol.49 No.570 2023年1月15日