確実に一般診療所減少時代が到来するその場合に最優先で医療過疎地対策を

統計的な話ですが、18年と19年9月の一般診療所数を比較すると527施設増加しています、その後の1年間は414施設、さらにその1年後は1416施設、そして21年9月からの12カ月で728施設増加しました。日本の病院数は年々減少しているにもかかわらず診療所は毎年微増しています。これに伴い診療所で働く医師も施設数増加以上に増えています。

厚労省は2年毎に12月末日現在の「医師・歯科医師・薬剤師統計」を公表しています。直近の報告は20年末現在の数字です。これによると医師数は33万9623人、うち女性が22.8%、病院の従事者が約64%、診療所が約32%、人口10万対269人、平均年齢は52.4歳だそうです。診療所で従事する医師10万7226人のうち女性は20.8%、平均年齢は60.2歳です。

診療所医師の年齢階層別構成割合をみると40歳以下は僅か5%で、78.1%が50歳以上で70歳以上は21.8%となり、男女比では年齢階層が高ければ高いほど男性の比率が高くなっています。日本の地域で医療を支えるために診療所の医師は大切な役割を担い、貢献していますが、その中心は60歳代の男性医師達なのです。ただしこれからも診療所で従事する70歳以上の医師は増加し、女性の比率も高くなる傾向が続きますが、診療所数がこのまま微増傾向が続くかどうかについては、よくわかりません。

廃止される一般診療所数は年によって差がありますが500施設以上あるかもしれませんし、新設されるのはそれ以上だということです。数字はあるし、地方厚生局別に経年集計すれば正確な数値が理解できるはずなのですが、正直いって一般診療所の人口規模別自治体別年齢別性別の動向を正確に把握できていません。ただ、都道府県別に観察すると一般診療所が増加しているのは大都市部で、すでに一般診療所が減少し、人口稠密度が高い地区にばかり新設されている傾向があることはわかります。もう少し精査してみますが、人口減少地域では近い将来、人口規模が少ない自治体にある一般診療所が急減し、一般診療所数が全国的にみても減少する時代になるのではないかと考えています。

◎医療過疎地での医師確保それは診療所の継続性だ

指定都市および中核市人口の10万対男女別医療施設従事者医師数をみると、吹田市が約589、高槻市431、熊本市428の順となり、低い順では豊田市約132、いわき市136、川口市148人となります。最低と最高は約4倍の差があります。吹田市には大阪大学付属病院をはじめ病床数の多い病院が数多くあります。実は川口市にも数多くの病院がありますが、死亡数と出生数の差による「自然増加」と、人口流入と流出の差による「社会増加」が急激で過去30年間で4割近い人口増加がありました。そのため、人口10万人対では低い数値になるのだと考えられます。

人口10万対100人台ということは、1万人で1人か2人の医師ということになります。22年10月1日現在の日本の1741市区町村で人口3万人以上は44%にすぎません。人口1万人以下547、5千人以下306村という結果です。人口1万人以下の市もありますし、千人ギリギリの町もあります。無医村というと医師がいない村だけではありませんし、人口10万に換算すると200以上になる村や町もあるということを理解する必要があると思います。

医療過疎地では、診療所はあるものの医師はその町村には皆無で、週1ないし2日開かれる場合や週1回の巡回診療があるという場合もあります。医師の定住が困難な地域でオンライン診療や訪問診療・各種訪問医療サービスあるいは緊急時の患者移送体制が普及されれば多少住民の診療不安が軽減されるかもしれませんが、当面の課題は医療過疎地での診療所の継続性を確保することだという意見もあります。医療過疎地で高齢の医師が1人で開業し診療を継続している現状では、その医師に何かあれば後継者難で無医地区になる恐れが常にあるのです。

◎医療過疎地で働く医師を全面支援する政策が必要

日本の医療は、医療過疎地で働きたいと考えるまともな医師を全面的に支援していませんし、医療現場を調査することなく机上で医療費抑制策をこねくり回しても、大きな成果はえられないのではないかと思います。中途半端な改革をすると、ギリギリの状態でも地域医療を確保してきた独自のシステムを崩壊させ、決して再生できなくしてしまうことがあります。これまでに診療側が対策をしつつも抵抗した結果、せっかく構築されてきた医療費保障システムや地域医療自体を持続できなくなる恐れが生じるリスクがあったこともあります。医療過疎地で高齢の医師が1人で開業し診療を継続して現場を現地・現実・現在で把握してみれば、その医師に何かあればどうなるのかを想像することは簡単です。

無医村とか医療過疎地対策はこれまで多大の努力が積み重ねられてきましたし今後も制度政策として展開されると思いますが、政策目的の明確化、ICT技術などの最大活用化、何よりも過疎地で働こうとする医師に対する心理・社会的な支援を前面にださないと難しいのではないでしょうか。

全国の医師という職業人の1人ひとりの考え方も行動も多様ですが、職業選択に当たり単純に「人のやくに立ちたい」と考えた人が多数だと思いますし、どこかの時点で医師不足の地域で貢献してみたいと考えることも少なくないのではないかと思います。もちろん、生まれ育った場所で働きたいとか、いずれ海外で勉強し活動したいと考える人もいるでしょう。これって普通ですよね。ただ「人の命を自らの力で助けたい」と考えるかどうかで分岐点があるかもしれません。前に書いたように「医療過疎地で働きたい」と考えている医師は、少数派ではないように思えてなりません。

このような医師の選択肢を身近に多数用意してある環境が必要なのではないかと思いますし、60歳過ぎからでも「医療過疎地で働きたい」と考える医師の知人もいます。こんなことを起点あるいは前提とした心が通じる医療政策とか医療システムが欲しいのです。

社会医療ニュースVol.49 No.570 2023年1月15日