「異次元の少子化対策」ということは将来の国のかたちを示すことだと思う
現行、児童福祉法第1条「1すべて国民は、児童が心身ともに健やかに生まれ、且つ、育成されるよう努めなければならない。2すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない」。「福祉法」という文字が日本の法律名に初めて登場した憲法の理念に基づく児童の福祉に関する総合的基本法で47年に新憲法下の第一特別国会で制定されました。
当初は、少年教護法、児童虐待防止法、母子保護法などの第二次世界大戦前の「保護法」を統合化して構想立案されたものの中央社会事業委員会などの批判を受け、次代を担う児童の健全な育成支援、「福祉法」とした歴史があります。戦争により親を亡くした戦争孤児たちは家もなく、路上での生活を余儀なくされていました。そんな社会背景から、子どもの健やかな成長と最低限度の生活を保障するために不可欠な法であったそうです。つまり、日本の児童福祉は「戦災孤児」から始まったことになりますが、フランスなどでは「捨て子」対策として児童福祉がはじまったと社会福祉系大学では教えています。
岸田文雄首相は施政方針演説で「従来とは異なる少子化対策を実現したい」と訴えました。第1に児童手当などの経済支援、第2に学童や病児保育を含めた幼児・保育サービスの拡充、第3に育児休業強化や働き方改革、の論点を検討し、政策立案する方針を示したものです。まず、国家では児童手当に対する論戦が開始されています。
自民党は「所得制限を廃止する」方向にかじを切ったようですが、過去の民主党政権が「子ども手当」を創設して中学生以下に一律月額1万3000円を支給していた際、野党だった自民党は「ばらまき」と非難したことについて、今でも野党は批判しています。
◎すべての児童が対象?所得制限はなじまない
現在の児童手当制度は、子育て世帯を支援するための手当で、0歳から中学校卒業まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)の児童を養育している一定所得以下の世帯に支払われます。手当額は、満額で受け取れる世帯の場合、3歳未満が月1万5,000円、3歳以上小学生までが月1万円(第3子以降は1万5,000円)、中学生は一律月1万円です。
児童手当の所得制限は夫婦のいずれか高い方の所得で判定します。例えば、児童2人+扶養配偶者の会社員世帯の場合、夫婦のうち年収が高い方の年収が960万円程度(実際の判定は所得)を上回る場合は特例給付の対象となり、支給額は子ども1人につき月5,000円でした。以前は高所得でも一律5000円が支給されていたものが、昨年10月から改正法実施により支給対象外とされました。
東京都の小池百合子知事は、18歳以下に所得制限なしでの独自給付を表明し、所得制限を「一生懸命働いている人が罰を受けているようだ」と批判し、東京都独自の施策として「一律5000円」を実施する予定です。
児童福祉法の理念からすれば、本来、児童手当には所得制限はなじまないはずですよね。なんでも財政の都合で政治を判断してはダメで、「全ての子どもを社会全体で生み育てる」という国のかたちを堅持することが最優先されるべきではないでしょうか。
◎全世代型社会保障構想を未来志向で充実するべし
昨年末公表された全世代型社会保障構築会議の報告書はインパクトに欠けているように思います。なぜかといえば、政策の方針は示されていますが財源論については歯切れが悪いというよりも、財源の裏づけをともなった政策を画ききれない官邸の脆弱な思考回路が反映されているのではないかと憶測できるからです。首相の「異次元の少子化対策」は、賛成せざるをえない状況に追い込まれている日本の今を映し出しているに過ぎませんが、制度政策の変更によりたとえ出生数が増加(そんなに急変しない)したとしても、成人に達するまでには時間がかかり、少子化対策は即効性がほとんどないでしょう。むしろ政策的に将来の家族政策の一環として未来志向の「だれも家族を見捨てない」政策に転換することが重要なのではないかと思います。
1月30日の日経新聞朝刊の「世論調査」結果が気になりました。子ども関連予算の将来的倍増に向け、社会保険料などの負担が「増えても良いと思う」は「18~39歳が48%、40~50歳代47%、60歳以上は35%だった。負担増へ否定的な傾向が年配の層にみられた」。
とても興味深いというか、これでは60歳以上は、負担はヤダとごねているという印象しかありませんよね。ここは冷静に考えないといけませんよ。年金生活の人々が自分たちの世代だけが自己完結すればよいので、次世代次々世代の人々の暮らしがどうなっても良いと思っているのでしょうか?確かにそうゆう考え方もあるでしょうが、子どもがいようがいまいが、時代をつなぐことは大切です。政治が「生命や財産」を守るのは、究極的に考えれば「つぎにつなぐ」ためなのです。
だから目先の議論から未来の社会について政治は語らなければならないのではないかと思います。全世代型社会保障構築という目標は、将来の日本という国のかたちを左右する大切なイシューです。ですから「全世代型社会保障構想を未来志向で充実するべし」と叫びたいのです。
社会医療ニュースVol.49 No.571 2023年2月15日