全国の診療所が減少傾向に転じると地域医療はどのようになるのだろう
22年12月末の一般診療所概数は10万5318施設であり、前月末より27施設減少。これまで毎月、診療所数は微増傾向でしたが、いつかは減少に転ずる時代がきます。日本の医師の3分の1が診療所で働き地域医療のかなめとして津々浦々で貢献してくれていますが、地域にとって大切なはずの診療所の将来に不安があります。
本年2月末に21年10月1日現在の詳細な『医療施設調査』の結果が公表されましたので、一般診療所の動態状況をみてみましょう。20年10月1日からの1年間で診療所開設は9546、再開が229施設で、廃止は7612、休止が483施設で、差し引き1680施設増加しました。この数字を19年10月1日からの12カ月でみると、開設は8302、再開が3989施設で、廃止は7770、休止が934施設で、差し引き4施設減少。しつこいようですが、18年10月からの数字を並べてみると、開設は7768、再開が218施設で、廃止は6982、休止が493施設で、差し引き511施設増加しました。
正確なデータはこれだけしかありません。この36カ月の間に日本の診療所の4分の1弱で開設・再開・廃止・休止のドラマがあったことになります。世代交代などでスムーズに診療所の事業継承ができた件数は開設者の交代件数を調べればわかりますが、まとまった報告はありません。休止というのは開設者が何らこの事情で事業を継続できなくなった場合の届出ですが、休止から廃止になる場合も半数近くありそうです。毎年7000施設前後の廃止ということは、診療所の約7%に相当します。この3年間だけみると、約2割の診療所が廃止したことになりますが、新規開設がそれ以上あったことになります。
今、観ている数字は3年分ですが20年2月に新型の感染症が報告されてから地域医療は混乱しましたので、この期間を含む数字をみる場合には注意が必要です。ただ、パンデミックの宣言がなされる前までの診療所数は微増傾向。その後は廃止施設が増加して、月別にみれば新規開設より多かったことがあることになります。これから先、どのようになるかは予断を許しません。
◎急増も急減もせずただし都市に集中
診療所についてこれまでいわれてきたこととしてビルの中に開設する「ビル診療所」が増加し、夜間休祭日の医療が確保できなくなる。診療所を開設する医師が高齢化する。「1人診療」が難しくなり複数の医師が勤務する診療所が多くなる、といったことが指摘されてきたが、これらは事実です。
また、長期処方が普及することにより外来患者の診療間隔が長くなり医師1人1日当たりの外来患者数は減少した。「3分間診療」と揶揄されたこともあるが患者1人当たり診療時間は増加する傾向がある。「往診」をしなくなる医師が増加傾向にある、というようなこともある程度事実でしょう。しかしながら、診療別、地域別にみると何ともいえない場合もあります。「往診」については「往診専門診療所」の増加、救急車の搬送件数の増加などの影響もあるかもしれないし、交通事情の改善や高齢者向け住まいの増加が影響する場合もあるかもしれません。
人口減少社会にあって都市に人口が集中するという傾向が明らかですが、診療所の増加は都市部にしかみられないし、大都市は診療所数が増加し、過疎地では診療所の数は微減だが、そこに働く医師数は減少している傾向にあります。診療所はあるものの医師が常駐しているわけではなく「週1日」とか「週2日」といった診療所も増加しています。
こうしたことを考え合わせてみると、当面は日本の診療所数は急増も急減もしないものの都市部への集中がしばらく続くように思えてなりません。どう考えても都市部以外の診療所の継続が困難となり、日本全国では診療所減少時代が到来し、地域医療の再確保が医療供給体制の大きな課題になるではないでしょうか?
◎新しい技術革新で地域医療を確保していこう
医療技術の革新や総合診療医の必要性などによっても、変化している可能性がある。慢性疾患などで対症療法的薬剤治療の治療法が変化したとか、難治性疾患が治療可能になるという技術革新の恩恵もあった。診療科別の専門分化が進む一方で総合診療医の必要性が主張されることも多い。つまり、日本の診療所は、時代とともに大きく変化してきていると判断できるかもしれませんが、診療所に受診する患者さんの8割程度は生活習慣病や各種感染症を含む「普通の病気」(コモンディジーズ)であるといわれているので、まずはこれに適切に対応できる診療所が求められている、という意見もあります。
病院ばかりではなく診療所は地域生活の貴重なライフラインですので、なくてはならないものです。診療所の将来を心配する根拠のひとつが診療所開設医師の高齢化です。医師の3分の1は診療所では働いていますが、そのうち51.5%は60歳以上で、平均年齢は60.2歳です。診療所で働く70歳以上の医師は2万人以上います。これらの高齢な医師は地域の貴重な医療資源です。
今後はICT技術の技術を最大限に活用し、オンライン診療などを含めて地域の診療所を守り、地域医療を確保していくという合意の形成が最重要課題であろうかと思います。
社会医療ニュースVol.49 No.572 2023年3月15日