助けてといえる地域や社会創りのためみんなで自分みがきを楽しんで欲しい

「自立」、他人の助けが必要でなくなることではなく、いざとなったら「助けて」と声を上げれば、誰かがすぐに駆け付けてくれるようなネットワークが編めているということ。
「安心」は、具体的なだれかをあてにできる、いざとなれば頼れる人がまわりにいるということ。「あてにできる」人たちに二重三重に取り巻かれているなかで落ち着きを得られていることが「安心」。

以上は鷲田清一『濃霧の中の方向感覚』晶文社、2019の91-92頁からの抜粋で、兵庫県立大学経営専門職専攻客員教授である浜村明徳先生(小倉リハビリテーション病院名誉院長)が毎年大学院生に講義いただく資料に必ず引用される文章です。浜村先生は「自立とは困ったら、誰かがすぐに駆け付けてくれるような地域とのつながりがある中で、自らの持てる能力を生かしながら、可能性や選択したことにチャレンジし、自分らしく過ごしている状態」と説かれています。

自立は「助けて」といえば誰かがすぐ駆け付けてくれる状態だとすれば、自助はあくまでも「自分らしい状態」なのかもしれないとお聴きするたびに考えるようになり、この3年間私は「フランクリン自伝」や「自助論」、新渡戸稲造や松下幸之助の著作を再読しました。

大阪絢子「修養」の日本近代には「自分磨きの150年をたどる」という副題があります。大阪さんのこの本は「明治以来の日本の修養の系譜を正確に記述した貴重な研究成果」だと私は考えますし、特に医療や介護、保育や福祉の現場で働く女性の管理職の方々に是非お勧めしたいと思います。なぜならば、大げさにいえばこの本は「明治以降の男がどう生きてきたか?男たちはどんな本を読み何を考えてきたか?」という疑問に答えているのではないかと思うからです。

大きな書店の経営とかビジネス関連部門には、必ず「自己啓発」というコーナーがありますが、どのような目的で、何が、どのように書かれていて、今、なぜこの本なのかとか、この本が修養や自己啓発のジャンルのどこに位置し、何から読んだらよいのかということが理解できずに困った時期があります。なんでもかんでも読み漁るのも楽しいのですが「成功の法則」とか「絶対成功する方法」なんていうのをみると、「そんなことあるわけないだろ」とブツブツつぶやいてきました。

◎自分みがきに努力しよう

ICTだとかDXだとかいわれ世界は大きく変革しています。変化に取り残された人や地方や国は置いてきぼりにされ放題です。いろいろな国が経済発展して豊かな暮らしができることは、最終的には戦争が起きる可能性を低下させることにつながるはずです。今、カーボン・ニュートラルだとかグリーン・トランスフォーメーションといわれる脱炭素からの転換は無視できなくなってきています。化石燃料を無尽蔵に使うわけにはいきませんので生活の方法も変更しなければならなくなるのでしょう。これらの革新には、新しい技術革新が必要で、もし乗り遅れると悲惨な状況になるのかもしれないのです。

こうしたことに私は興味がありますが、新しい技術革新の担い手は人ですので、ものづくりより、人づくりに関心があります。人づくりで重要なのは基礎学力と考える力、それと清く正しく美しく生きる力なのではないかと思います。この生きる力を身につけるには、本人の意志が必要ですし、習うより慣れることが求められる場合が多いのかもしれません。

仕事のためのマネジメント教育などという分野にいるとリーダーシップだのネゴシエーション、人的資源管理や組織創造、財務管理や経営戦略などといった生き馬の目を抜くような「遣り繰り算段」の世界がみえます。しかし、そこにいるのは「人」ですので、人を理解できていないとどうにもならなくなります。必要なのはたゆまぬ研究と修養の積み重ねですが、実際にはスクラップ&ビルドの繰り返しで、どこまでやれば完成するのかどうかがわかりません。

何とか人を集めて、研修して、一人前に育ってくれても、楽しく明るく元気よく働き続けてもらうには、大変な努力と協力それと投資が必要で、その前提には、組織自体のパーパスや価値観の共有化が必要です。もし今「順風満帆」だと認識できるとしたら幸福な時期で、その状態が維持できるのは一瞬でしかなく、通常はつぎからつぎに対処しなければならに課題が山積される時期の方が多いのかもしれません。この状態を乗り切るのも人でしかありません。

だから私たちは、どのように状況におかれても自分で自分をみがくことを忘れてはいけないのではないではないでしょうか。人はいつでも「清く正しく美しく生きる力」をみがくことを目的にして生きることが、大切なのではないかと思うのです。

◎助けてがいいやすい地域に

子どもの自殺者も生活困窮者も増加して、賃金はそれほど上がらず物価は上昇しているという状況は、どう考えても悪い方向に向かっているとしか判断できません。人口減少で後期高齢者が増え、働いている人は減少しています。20歳から65歳までも65歳以上69歳までの人の実人数も減少傾向です。ただし65歳以上69歳までに人の就業率は増加傾向です。これは2020年度末で団塊の世代は全て70歳を超えたことに影響しているのかもしれません。70歳以上90歳までの男女別就業率と就業者数の統計はみつけられませんが、これからは70歳以上の人々の就業率が向上すると思います。

渋沢栄一は「40,50ははなたれ小僧、60,70は働き盛り、90になって迎えが来たら百まで待てと追い返せ」という格言を残したそうですが、地域というか、身近には町会というのがあり、主役は75歳から85歳になろうとしているのではないでしょうか。

今住んでいる場所で「助けて」といえる新しい地域創りが、求められているのではないかと思います。地域のみんなで自分みがきを楽しんでいただければ、地域はもっと風通しも良くなるでしょうし、挨拶もできるし、何かあったら助け合えるでしょう。文化生活とか地域生活を再考してみましょう。

社会医療ニュースVol.49 No.573 2023年4月15日