こどもまんなか社会を実現するためにはなにごとも女性優先に考えてみることだ
岸田文雄首相は、今年3月に「次元の異なる少子化対策」を打ち出したことは、記憶に新しいと思います。そのたたき台には、児童手当の所得制限撤廃などが盛り込まれ、一時大騒ぎになりました。
そして、4月1日からは「こども家庭庁」が誕生し、こども政策に本格的に取り組むことになりました。昨年6月15日に「こども家庭庁設置法(令和4年法律第75号)」「こども家庭庁設置法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律(令和4年法律第76号)」「こども基本法(令和4年法律第77号)」が国会で成立し、22日に公布されました。その後、設置準備室での各種準備は順調に進み、今年4月1日にこれらの法律が施行され、こども家庭庁が正式に発足したのです。
この困難な時代に「こども政策」が一元化され、新しい司令塔ができ、新たな施策が追加されることは、とても素晴らしいことだと思います。「こどもまんなか社会を実現するための」こども家庭庁の政策には、以下の6つの理念があるそうです。
➀こどもの視点、子育ての当事者の視点に立った政策立案
②全てのこどもの健やかな成長、Well-beingの向上
③誰一人取り残さず、抜け落ちることのない支援
④こどもや家庭が抱える様々な複合する課題に対し、制度や組織による縦割りの壁、年齢の壁を克服した切れ目ない包括的な支援
⑤待ちの支援から、予防的な関わりを強化するとともに、必要なこども・家庭に支援が確実に届くようプッシュ型支援、アウトリーチ型支援に転換
⑥データ・統計を活用したエビデンスに基づく政策立案、PDCAサイクル(評価・改善)
◎韓国の急激な出生減は政策対応の限界を露呈
2月22日、韓国統計庁は「韓国の2022年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子供の数、暫定値)は0.78となり、前年の0.81からさらに低下し、OECD加盟国で最下位となった」という発表をしました。このニュースは、韓国では大多数の人々が深刻な社会問題として認識し、世界はビックニュースとして取り扱ったのです。
韓国では、5年前から所得制限はない児童手当(子ども1人当たり毎月約1万300円相当)の支給を始め、今年から「親給与」として、0から1歳児を養育する世帯に月約3万6500~7万3000円の支給をはじめ、24年度には更に増額する矢先の発表でした。韓国政府が少子化対策を拡充し、何とか出生数の低下を食い止め人口減少を緩和する広範な政策を展開してきました。それは、フランスやイギリスの政策動向を取り入れ合計特殊出生率の低下に歯止めを掛けたいという政策意図となりました。しかし、高額な住宅価格や教育費など子育て負担の増大で、結婚や出産をためらう人が急激に増加し、出生率の反転上昇のきざしは閉ざされてしまったのです。
お隣の国の数字なので実感がないかもしれませんので、日本との比較で説明します。日本の2012年の出生数は103.7万人でしたが10年後の22年には77.7万人、合計特殊出生率は1.26です。韓国の12年の出生数は48.5万人でしたが22年には24.9万人、合計特殊出生率は0.78になってしまったのです。
ちなみに韓国の12年の合計特殊出生率は1.3でしたので、日本の22年の数字とほぼ同様です。その後の韓国の合計特殊出生率は、さらに半分程度までに急激に減少したことになります。その原因が若年層の結婚・出産意欲の減退にあることは明らかですが、それが経済的社会的文化的な背景によってもたらされていることについては、たくさんの分析があります。
韓国の経済発展は日本と比べれば驚異的でさえあります。庶民感覚では賃金も物価も不動産価格も日本以上であることは明らかです。一方、大変な学歴偏重社会で、大学進学率は男性より女性が高く、男性には徴兵制度があり、結婚する場合には男性が住宅を準備することが社会的に強制されるという習慣があるということも指摘されています。
それはそうなのでしょうが、問題の本質は韓国政府が少子化対策を拡充し、何とか出生数の低下を食い止め人口減少を緩和しようと必死に政策展開しても、何ら成果がなくこの10年間で合計特殊出生率0.78という社会の崩壊を招くかもしれない数値を示したことです。
◎異次元の少子化対策が必要なわけは明確
岸田首相が「次元の異なる少子化対策」と発言した直後「異次元」とはどういう意味かと突っ込まれていました。これに対して政府は明確な説明はしていないのではないかと思います。「これまでとは次元が違う」という表現は、私には「2次元から3次元になるらしい」ときこえました。
つまり「線から面、面から立体的な少子化対策を進めるんだ」という意味だと勝手に理解しているのです。
以下は私の幻想です。首相官邸は韓国の「0.78ショック」を深刻に受け止め、このままでは「マズイ」と判断。こども家庭庁もこれから船出し、本格的に取り組もうとしている矢先に、どんなに政策展開しても合計特殊出生率は益々低下して、出生数が半減する可能性も否定できません。そうなら「なりふり構わず強力な少子化対策が必要だ」が、こどもを産むかどうかは女性の決断なのだから「一層の女性優先的な政策展開を進めざるをえない」と考えたのでしょうね。
社会医療ニュースVol.49 No.576 2023年7月15日