レガシーシステムが存在することが病院DX推進を妨げる危険を避ける
「既存ITシステムの崖(2025年の崖)あらゆる産業において、新たなデジタル技術を活用して新しいビジネス・モデルを創出し、柔軟に改変できる状態を実現することが求められている」「何を如何になすべきかの見極めに苦労するとともに、複雑化・老朽化・ブラックボックス化した既存システムも足かせとなっている」
この文章は、2018年9月7日に公表された経産省の「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の《DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~》という衝撃的な報告書の一部です。壁になるのは、「予想されるIT人材の引退やサポート終了等によるリスクの高まり等に伴う経済損失」で、25年以降「最大12兆円/年(現在の約3倍)にのぼる可能性があると警告しています。
この報告書の6ページで「DXの足かせとなっている既存システムDXを実行していくに当たっては、データを収集・蓄積・処理するITシステムが、環境変化、経営・事業の変化に対し、柔軟に、かつスピーディーに対応できることが必要である」のだが、企業においては、ITシステムが、いわゆる「レガシーシステム」となり、DXの足かせになっていると指摘しています。
「レガシーシステム」とは、技術面の老朽化、システムの肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題があり、その結果として経営・事業戦略上の足かせ、高コスト構造の原因となっているシステムのことだというのです。レガシーと聴けば、遺産とか遺物のことを意味しますが、ここでは「時代遅れになってしまった古いコンピューターシステム」を意味します。
◎すでに現実となっているDXの現状を考えてみる
仕事や日常生活の変化を5年前と比較するとDXが進んできていることが改めてわかります。在宅勤務が進みリモートワークが当たり前になりましたし、商品の購入のほとんどがオンラインになり、翻訳ソフトは正確になり町中でポケトークなどによりコミュニケーションが可能です。音声入力が普及し、文書やメモをデジタル化できますし、文書自体をAIで作成することも急速に普及しています。
無人店舗が増え、店舗に入るとパッドでオーダーしロボットが運んでくるという飲食店も多くなりました。タクシーを呼ぶのも支払うのも便利になり、ドライバーは携帯電話から正確なナビゲーション情報を利用していますので顧客とのトラブルは減少しているそうです。新聞も本も雑誌も発行部数が激減し、通勤通学時の公共交通の電車やバスの車内では、ほとんどの人がモバイルを操作しています。
ICカードや各種自動精算機や改札機そして販売機、業務用や家庭用のロボットとは毎日のように接触していますが、それらを動かすシステムにはCloudが活用され、IoTによりあらゆる機械がインターネットと結びつき、Bigdataが蓄積されAIによって新たな情報が提供されます。これらを可能にしているのは、情報通信インフラである5Gに依存していますが、30年代に導入予定の6Gでは、従来の延長上だけで捉えるのではなく、有線・無線や陸・海・空・宇宙等を包含した統合的なネットワークが検討されています。
◎病院DX推進の現状を訪問聞き取り調査する
今、改めて5年前の報告書を読み返してみると、改めて指摘されている通りに物事が進んでいるように思えてなりません。背筋が寒くなるような感覚があり、この約3カ月各地の病院を訪問させていただき病院DX推進状況について話し合いを続けてみました。
この報告書に書いてあることで衝撃的なことは、「既存システムの問題点を把握し、いかに克服していくか経営層が描き切れていない恐れ」「既存システム刷新に際し、各関係者が果たすべき役割を担えていない」「既存システムの刷新は、長期間にわたり、大きなコストがかかり、経営者にとってリスクがあり」でしたので、このようなことが各病院で起きているのかどうかの確認を進めました。
訪問した病院での話し合いでは、1病院を除いて全て「その通りなのだ」という結果でした。最大の課題は、既存システムの補償期間などの問題から、いつまで維持できるか正確にわからないことだということです。それは、既存システムを維持することのコスト増大、新しいシステムに移行するための膨大な資金調達の不安です。
つぎに、病院DX人材の獲得も要請も困難で対応できないという現実問題です。「DX推進のためには人材に不安はない」ということはなく、ユーザー企業やベンダー企業との関係が良好であるといえる病院の管理者や経営者はいませんでした。
◎病院DXを推進できないといずれ世界に追いつけない
比較的規模の大きな病院での話し合いでは、手術支援ロボットである「ダヴィンチ」と「ヒノトリ」をどうするのかとか、アミロイドPETを導入するかどうかという検討が院内で行われているとのこと。病院のサイバーセキュリティ対策については、対応しているものの万全かどうかわからないということ。そして、6月2日に総理大臣を本部長とする「医療DX推進本部」が決定した「医療DXの推進に関する工程表」についての意見交換をしました。
病院DX推進の現状は、危機的であり、早急に改善するための協力と支援が求められます。今、自由な話し合いの場が必要です。
社会医療ニュース Vol.49 No.578 2023年9月15日