円相場が日本の国際的位置を端的に表し日本の経済の先行きは真っ暗闇
円安・ドル高の進行傾向に歯止めがかかりません。10月3日ニューヨーク証券取引所で円相場が150円を超えました。22年10月22日に150円越えして以来のことです。
東日本大震災後の11年10月につけた1ドル=75円32銭の戦後最高値から円相場は円安傾向が続いています。円相場が100円以下というのは13年までで、その後10年間、円安傾向です。19年の年平均が109円、20年が106円台、21年が109円台だったことに慣れているせいか、150円台といわれると3割以上は高くなったという感じがします。
相場は、社会経済の動向や国際情勢、経済成長率、金利の変動、貿易収支、紛争・戦争あるいは各国中央銀行のトップや世界的な投資家の発言などの要因が交わって変動しています。
教科書的には、国際決済が基軸通貨である米ドルで行われるため、国内企業の輸出が増加すると獲得した米ドルを日本円に替えるので円高になり、円の価値が上がり、円高に向かいやすくなる傾向があります。逆に輸入が増加した場合には、円安傾向になります。
今、世界のエネルギーや食糧価格が上昇していることが円安の要因であることは確かですが、日米の金利格差が急激に拡大していることも大きな要因だと、判断できます。
日本で金利の引き上げができないのは、多額の公債負担額が一層膨れ上がったため決断できない、と私はみています。ただ、金利が上がると企業や個人が資金調達しづらくなり、経済活動が抑制され、消費者の購買意欲が低下すると、さらなる景気の低迷が予測されていることに、異議はありません。
最近の世界の為替相場や証券相場は、乱高下しています。プーチンの戦争が長期化し、世界は分断され、国際秩序が回復されることもなく、グローバリゼーションの時代は終焉してしまいました。
問題はこの先です。岸田政権は「新しい資本主義」を主張していますが、日本経済の先行きに希望がみいだせないでいます。為替相場の専門家といわれる人々の今後の予想を読むことがありますが、3年後に円高になるという予想にお目にかかりません。3年後170円台という予想をみると、漠然とした不安が払拭できません。
◎ビッグマック指数にみる日本市場の購買力の低下
ご存じかもしれませんが、「2023年のビッグマック価格ランキング」というものがあります。各国のマクドナルドで販売されているビッグマック1個当たりの価格を比較するもので「ビッグマック指数(BMI)」と命名されています。
23年7月のビッグマックの日本での価格は、450円でしたが、これは世界43番目の価格で、USAの43.3%の価格だそうです。この月の相場で円換算すると、17位がオーストラリアで713円、31位韓国580円、46位香港419円になります。
そういうものだと思えばいいのかもしれませんが、この日本の国際順位が下がり気味なのが気になります。この7月の円相場は約138円でしたので、今後とも順位が低下する恐れがあります。
日本国内で生活している限り、ビッグマック価格も円相場も、気にせず暮らすことができます。ただ、このままエネルギーや食品価格が高騰し、物価上昇に歯止めがかからず、賃金水準が相対的に上昇しないという状態になれば、多くの人々は過去より貧乏になることになります。
1割程度の物価上昇なら耐えることができまるのかもしれませんが、それが長期的に2割以上になると政情不安定の原因になるのではないかと思います。特に、政治的発言力に恵まれていない低所得世帯の生活は、困窮することになります。1970年代のオイルショック・狂乱物価の時代を生きてきましたが、食べるものに不十分するようになると社会は変わるのでしょう。
円相場は物価に影響を与えますので、国際社会の中の日本を考えるとすれば、円相場から自由になれません。人生、楽観的に生きていたいと思いますが、一寸先は闇なのかもしれません。特に、今後の円相場は予断を許さないと思います。
◎国際比較をしようとすれば円相場が影響しているのだ
円相場に関心があるのは、医療費や社会保障費用などの国際比較に関して、米ドル換算数値が多用されるからです。例えば、東京都内の35歳平均の大卒看護師の平均年収が600万円とします。円相場が100円から150円に変化するとドル換算では400万円相当の価値に下がったことになります。
同じ条件で、ニューヨーク市のレジスタード・ナースが9万ドルであれば、円換算では900万円が1350万円相当になることになります。ただ、東京とNY市を比較しても日常の生活に大きな変化はありませんし、相場を気にする必要はありません。
病院経営を国際比較するとか、国民医療費を計算するとか、GNP対比でどうかという話になると、円相場を正確に理解する必要があります。急激な為替変動時は、世界中の経済指標を円換算していたのでは、何もわからなくなりますので、米ドル換算が便利です。
円相場については、多くの専門家がいらっしゃいますし、日本の政府にとっても産業界にとっても重要な関心が寄せられています。ただし、単純に考えてみれば円相場は、国力を示す指標のひとつであることは間違いないはずです。
日本の経済学者の多くは、人口減、生産年齢の人口の減少が日本経済に悪影響を与えるとおっしゃっていますが、そんなことは長年警告されてきたことです。聴きたいのは、どうすれば日本社会を最低限支えていけるかということです。
円高は強く、円安は弱い国力だということにほかなりません。それゆえ、円相場の変動に関して、注目することが必要だと考えています。
社会医療ニュースVol.49 No.579 2023年10月15日