公立病院には大切な使命があるが私主公補の原則に変更する時代だ

「新公立病院改革ガイドライン」が何かわからないし、何ら興味もない方もいると思いますが、日本の社会保障にとって重要なことなので、公立病院の会計用語で簡単に説明させていただきます。

まず、今から13年前の07年12月に総務省は「公立病院改革ガイドライン」を策定し、これを指針に公立病院の経営改善を進めろと指示しました。赤字の公立病院が8割を超えていましたので、公立病院がある全自治体に対し、3年程度で経営効率化=経常収支の黒字化、5年程度で再編・ネットワーク化と経営形態の見直しを、強く求めました。具体的にはまず、自らの自治体で改革プランを作ることを義務化しました。つぎに、経営効率化として、05~07年度の3年間連続で病床利用率が70%未満の病院に対し、病床数の削減を要請しました一方で、財政措置として、08年度限定で公立病院特定債の発行を可能とし、たとえ病床を減らした場合でも地方交付税の額を5年間減らさない方針とともに、交付税額を病床利用率に応じて決めることを「検討する」としていると宣言したのです。

公立病院に対して、何が何でも黒字化しろ、できなければまず病床削減しろ、そのつぎに経営再編や経営形態の在り方を見直せ、努力が認められれば財政的便宜を図ってやるぞ、と活を入れたわけです。この改革プランをさらに進化させて17年から21年3月まで計画を進めているのが新プランと呼んでいるのです。

公立病院数も病院病床数も減り、非公務員型の独立行政法人化した公立病院もありますし、指定管理者制度といい経営を民間に依頼する病院も増加しました。公立病院の財務上の問題は確かに改善しましたし、地域医療という観点でみても効果は絶大だったと思います。しかし、公立病院の中には人員整理や給与引き下げを行った病院もあり、医療の質が向上したかどうかという確かな証拠は得られていません。というより改革しすぎかもしれません。

◎必要な公立病院はあります

大げさにいうと日本の医療の争点としての公私病院問題があります。大都市部では、私立大学の医学部などが地域医療に貢献していますし、大坂府のように大きな民間病院が急性期医療の中核を担っているところもあります。逆に、民間病院がまるでない地域もあります。

たまにですが真顔で「大間のマグロが食べられるのは国民健康保険大間病院48床のおかげ」「竜飛岬がある外ヶ浜のアワビは外ヶ浜中央病院48床のおかげだよ」などと話すことがあります。ともに本州最北端の公立病院ですが、どう考えても病院がなければ暮らしが成り立たないと思います。北海道は広いですが、病院がなくなれば人が住めなくなります。夕張市は病院を有床診療所と老人保健施設に転換しましたが、人口減少が続き市として存続が困難なりつつありますし、北海道の公立病院は大切にしてあげて欲しいと思います。

公立病院で立派に使命を果たし、職員は士気旺盛で住民からの信頼を集めている病院をわたしは沢山知っています。他方、そこそこの人口規模の市でも、市立病院として機能していないのではないかのではないかと考えざるをえない病院も知っているのです。各地域でしっかり点検して、公立病院の使命や役割を明確にして、必ずしも必要がないと判断されれば、地域医療のため閉鎖などを真剣に検討して欲しいと思います。

◎公主私補から私主公補へ

公私病院問題は大問題ですが、議論を重ねても何も変わりません。言い逃れの論理としては「地域の実情に応じて」などという行政用語では改革は無理です。必要な公立病院は守り、それ以外は徹底的に運営を見直すべきだと、わたしは考えています。あまり大きな声でいう人が少なくなりましたが、なんとなく日本は「公主私補」の国だと思います。米国の有名な病院や大学などは民間が主ですし、公権が医療や教育を支配している国は民主主義国では珍しいと考えても間違いではありません。ただし、長い伝統が続くドイツ、フランス、イタリア、スペインなどは病院も大学も国公立が主体です。日本では「公務員は安定している職業だ」と考えている人の割合が高いのかもしれませんが、米国で「公務員」というのは政治に翻弄されるみじめな職業人という感覚なのではないかとさえ思うことがあります。米国は「私主公補」の国ではないでしょうか。

公が主で、私が足らないところを補えばよい、という考え方と逆の考え方では、根本的に国の形が違います。共産党独裁という国では、完全に公主私補です。どちらが良いかは民主的に決めればよいのですが、日本では公権力が支配するので民は従え的な因習が残存していると思います。しかし、公の判断が常に正しいわけでもありませんし、まして公務員が特権階級化するなどということは、民主主義的には受け入れられないことの方が多いと思います。人生のほとんどを公務員として生活したわたしは、そう思っています。

国際競争で日本がどうにか振り落とされないために、そして国際的なデジタル社会を生き抜くために、われわれには公主私補から私主公補へという変革の必要性があるのではないでしょうか。

◎本当に民間対応できないのか

少し極端なのかもしれませんが、米国の病院は民間病院が多いから感染者も死亡者も多いわけではないと思います。日本の医師も医療従事者も「米国の医療は良い」と考えている人は少数ではないと思いますが、医療保険もなく低所得者には厳しい医療システムです。しかし、米国の医療水準は高く、世界中から医科学者が集まっています。公立病院の土地建物そして法定公費支援を社会医療法人に提供すれば同等以上の使命も機能も果たせるのではないでしょうか。

関東圏の国公立大学病院と私立大学医学部付属病院の機能は、すでに互角であることは、今回のパンデミックが見事に証明していると思います。

社会医療ニュース Vol.46 No.545 2020年12月15日