変わらないことは何もない儚い世界で公立病院だけに医療を頼ることは限界

誰もが新年が待ち遠しかった。それは、長期間続いた伝染病の世界的脅威から解放される喜びを分かち合いたいという自然な思いだ。辰年というのも縁起が良いのではないか、きっと経済も世の中も良くなるに違いない、と信じたかっただけなのです。

元旦、夕方に発生した『令和6年能登半島地震』そして翌日午後5時47分ごろの羽田空港の航空機衝突事故で、正月行事どころではない。安全、安心、安定志向が年々高まっているようにも思えますが、人の命は儚く世の中は常に移り変わっているという、現実の世界に引きもどされるだけなのでしょう。

今年で29年になる117『阪神・淡路大震災』、そして13年になる311『東日本大震災』は、多くの教訓を教えてくれたのですが、それが今回十分に生かされたかどうかは分かりません。運輸安全委員会の報告が報道され、航空重大インシデントと認定した滑走路などへの誤進入は47件あり、それらすべてがヒューマンエラーに起因した可能性が指摘できるそうです。改めて空港の安全確保ということがむずかしいことなのだと、考え込んでしまいます。

通常国会での論戦を観ていると「国が、政府がもっとしっかりやれ」「はい、最大限努力します」みたいな問答が繰り返されます。しかし、超多額の公債残高を抱え有効な財政対策も打てず、増大する社会保障費用の削減に血眼になる行政と、物価高に対抗する意味でも大幅な賃上げをしたい政権の意図は空回りしているようにみえます。

ドル換算の国民1人当たりGDPが急落しつつあり、OECD加盟国の中では経済的に精彩を欠いています。日本の国力は低下し、多額の公債投入による安易な公的支出は、日本経済の基盤を著しく悪化させます。それでも社会保障給付費の削減は、国民生活の安定を脅かすことになります。こうなると効果が期待できない公共投資を削減しなければならないはずです。公共投資の一部に公立病院への建築補助金や運営補助金があります。

◎奥能登は限界自治体なのだ

能登半島地震で大きな被害を受けた石川県は、確認された死亡者は奥能登2市2町に集中していると報道されています。奥能登というのは、珠洲市、輪島市、穴水町、能登町で、合計人口は6万179人になります。昨年5月5日のマグニチュード6.5の「奥能登地震」で、珠洲市が震度6強、死亡1人、全壊36棟、半壊256棟で、応急仮設住宅が3団地で完成し復興に向けて努力中におきたのが、今回の地震です。これでもかといわんばかりに襲ってくる地震と津波そして余震に抗うすべがありません。

高齢人口比率は珠洲市51.1%、輪島市46.8%、穴水町48.9%、能登町49.6%と高率です。ちなみに奥能登2市2町6万179人中の百歳以上の人数を調べてみたら、107人でした。想像を絶する過疎と人口減少、超高齢社会のリアルは、他人ごとではありません。

65歳以上人口が50%超え、税収入の低下と高齢者医療、高齢者福祉の負担増で財政の維持が困難になった自治体を「限界自治体」と呼びます。私たちはこの機会に、人口減少超高齢社会、限界自治体、百歳老人を前提とした対応を考えなければならないと思います。

◎公立病院にだけ頼る限界

奥能登の4つの市町で北部医療圏を形成しています。そこには市立輪島病院175床、珠洲市総合病院163床、公立穴水総合病院100床、公立宇出津総合病院100床の公立病院があります。これら全ての病院は地震の影響で十分機能していないばかりか、医療従事者の多くが被災し退職を余儀なくされています。この医療圏には急性期医療を担う民間病院はありません。

この4病院では、被災前から人口が減少し、高齢化の進展で、各病院の経営や医療従事者の確保が難しいなか、「病院間の連携強化や今後のあり方を検討したい」との声が上がっていました。実際には、「公的病院経営強化プラン」を策定する際に検討が進められたとのことです。しかし、今後20年間でさらに人口減少が進み、4市町での総人口が3万人以下になるという現実に対して、有効な計画は未策定です。

奥能登の南側は七尾市で公立能登総合病院434床(うち100床が精神病床)と社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院426床、国立病院機構七尾病院214床(一般病床149床)などがあります。どの病院も被災し、復旧に努力されました。特に、恵寿総合病院は、病院機能の復旧に全力を尽くされ、1月末には病床使用率90%以上になりました。被災した病院職員が多かったにかかわらず、各職員の懸命な努力と職員の強固なチームワークは、社会医療法人の有事の実践として高く評価されるべきものだと思います。

2月3日に珠洲市と七尾市の病院を視察後、馳知事は、記者団に対し、「奥能登地域の公立病院は生命線で、病院が機能し、介護施設との連携がなければ2次避難している高齢者が安心して戻ることができないことを改めて理解した」と述べ、「どういう人材が必要かや医療機器の買い替えなど要望を出していただき」と話したと報道されました。

被災した公立病院を復旧、復興するのは行政の責任であることは確かなのでしょう。しかし、今後確実に人口規模が半減する自治体病院の建物や設備を以前と同様に再建すればよいのかどうかは、しっかり検討するべきだと思います。特に、北部医療圏で今後とも医師、看護師をはじめとした医療従事者を確保することは、極めて困難だという前提から議論を始めて欲しいと思います。

被災された皆様に対しては、衷心よりお見舞いを申し上げますとともに可能な限り継続的な支援が必要なことは十分理解しています。しかし、公立病院問題の検討は、避けて通れない課題だと考えているのです。私は、変わらないことは何もない儚い世界で、公立病院だけに医療を頼ることには、明らかに限界があると思います。また、公立病院以外にも立派に使命を果たし、地域医療を守っていただいている社会医療法人を高く評価したいのです。

社会医療ニュースVol.50 No.583 2024年2月15日