児童手当拡充等の支援金による財源確保も合理的配慮の提供も共生社会実現のためだ
本年4月1日に施行された「改正障害者差別解消法」では、事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化されたもので、事業者と障害のある人、両者が対話を重ね、一緒に解決策を検討していくことが重要です。
「障害者差別解消法」は、2013年6月に全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指し、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として制定されました。
この法律では、行政機関や事業者に対して、障害のある人への障害を理由とする「不当な差別的取扱い」を禁止するとともに、障害のある人から申出があった場合に、負担が重すぎない範囲で障害者の求めに応じ合理的配慮をするものです。
なお、ここでいう「障害者」とは、障害者手帳を持っている人だけではありません。身体障害のある人、知的障害のある人、精神障害(発達障害や高次脳機能障害を含む)のある人、そのほか心や体のはたらきに障害のある人で、障害や社会の中にあるバリアによって、継続的に日常生活や社会生活に相当な制限を受けている全ての人が対象となります。
また、「事業者」とは、企業や団体、店舗のことであり、目的の営利・非営利、個人・法人を問わず、同じサービスなどを反復継続する意思をもって行う人全てです。医療・福祉・教育分野のみでなく個人事業主や各種ボランティア活動をするグループも「事業者」に含まれます。
一般に「不当な差別的取扱い」とは、障害のある人に対して、正当な理由なく、障害を理由として、商品やサービスあるいは各種機会の提供を拒否したり、サービスなどの提供に当たって場所や時間帯を制限したりするなど、障害のない人と異なる取扱いをして障害のある人を不利に扱うことをいいます。法では「不当な差別的取扱い」を禁止しているのです。
各種の施設・設備やサービスなどは障害のない人には簡単に利用できる一方で、障害のある人にとっては利用が難しく、結果として障害のある人の活動を制限してしまっている場合があります。「合理的配慮の提供」とは、障害のある人から「社会的なバリアを取り除いてほしい」という意思が示された場合には、その実施に伴う負担が過重でない範囲で、バリアを取り除くために必要かつ合理的な対応をすることとされています。
◎改めて共生社会化に必要な対応を考える
簡単にいえば、さまざまな人々が、すべて分け隔てのなく暮らしていくことのできるのが「共生社会」でしょう。障害のある人もない人も、支える人と支えを受ける人に分かれることなくともに支え合い、さまざまな人々の能力が発揮されている活力ある社会のことです。その実現は希望ですが、正直、至難の業です。
できることは、「各種障害への理解を深め」「バリアフリー設備を増やし」「困っている人に声をかけて手伝い」「人々がお互いを理解し、認め合えるようなコミュニケーションの場を増やし」「人々が持つ多様な文化や価値観を理解し受け入れ」られるような仕組みをつくり、商品やサービスを改良していくことでしょう。
むずかしいのは「心のバリア」と表現されることが多い、何らかの障害に対する無関心・無理解・無視のようなバリア感情をどうしたら取り除けるのかといったことです。極端ないい方ですが「いつも多数派に迎合し少数派を排除する」「価値観が共有できないと無視する」「自分と違う人との共存は願わない」「よそ者は排除し攻撃する」といったことが行動として起こりますし、心の底にそのような感情が存在することを自覚している人は多数だと思います。
◎全世代型社会保障は総論賛成各論反対
全世代が支え合う「全世代型社会保障は、年齢に関わりなく、全ての国民が、その能力に応じて負担し、支え合うことによって、それぞれの人生のステージに応じて、必要な保障がバランスよく提供されることを目指すものである。超高齢社会にあっては、社会保障は世代を超えた全ての人々が連帯し、困難を分かち合い、未来の社会に向けて協力し合うためにあるという認識を、世代間対立に陥ることなく、全ての世代にわたって広く共有していかなければならない」と書いたのは、昨年末に公表された「全世代型社会保障構築会議報告書」です。
総論部分は賛成多数だったはずですが、政府は児童手当の拡充や「こども誰でも通園制度の創設」などの財源確保ができず、結局➀規定予算活用1.5兆円、②歳出改革1.1兆円③医療保険料と集める「支援金」1兆円、合計3.6兆円で財源を確保する方針を示しました。
医療保険から集められる「支援金」は、26年度から国民1人当たり月250円からはじまり、350円、450円と段階的に引き上げられる。28年度の負担額は、共済組合が600円、健康保険組合500円、協会けんぽ450円、国民健康保険400円、後期高齢者350円、国民年金のみで生活している後期高齢者は50円と説明されています。これらは個人が負担する金額で、原則的に同額を企業や国が折半します。
これに対してマスメディアの反応は冷ややかです。国民の負担が増えることに大賛成する必要はないと思いますが、共生社会を目指す全世代型社会保障には財源が必要ですから、総論賛成各論反対というわけにはいきませんよね。
社会医療ニュースVol.50 No.585 2024年4月15日