勤労と納税の義務を果たしますので福祉の正当な要求を満たして下さい
世界人権宣言第29条では「すべての人は、その人格の自由かつ完全な発展がその中にあってのみ可能である社会に対して義務を負う」、2で「すべての人は、自己の権利及び自由を行使するに当たっては、他人の権利及び自由の正当な承認及び尊重を保証すること並びに民主的社会における道徳、公の秩序及び一般の福祉の正当な要求を満たすことをもっぱら目的として法律によって定められた制限にのみ服する」、3で「これらの権利及び自由は、いかなる場合にも、国際連合の目的及び原則に反して行使してはならない」としています。
今どき何をいいたいのかというと、まず義務があり義務と権利の関係があり、その行使は国際連合の目的及び原則に沿ったものでなくてはならないと、規定していることを再確認したいのです。好きなのは2にある「制限のみに服する」という言葉です。道徳、公の秩序、そして福祉の正当な要求を満たす目的の法律には従うことを要請しています。逆にいえば、それ以外は自由なんですといっています。
日本国憲法では「国民の3大義務」として「教育の義務」「勤労の義務」「納税の義務」を定め、「国民の3大権利」は、生存権(健康で文化的な最低限度の生活を営む権利)、教育権(教育を受ける権利)、参政権(政治に参加する権利)としています。大学生の皆様に何度も問いかけます。勤労と納税の義務と生存権の関係を生涯考え続けることが、大切なのではないかとも話します。
人間の権利は大事です。ただそれが人間の勤労と納税に支えられているのだという理解が必要で、多分、社会の掟なのだということを何度も確認しながら生きていって欲しいという願いを伝えたいのです。サボリたい、少しぐらいズルしてもいいのではないかという思いは、誰にでもあると思います。どこかでトクしたと思ったこともありましたし、その思いが失敗の原因になりました。
社会を構成している人々の福祉の正当な要求を満たす仕組みには従わざるをえないし、そのために必要な勤労と納税は義務なのだと確認しながら、「福祉の正当な要求」とは何であり、どうしたらその要求を満たすことができるのかを考え続け、行動したいという希望があり、多少はなにかの役には立てたのかもしれないと思うこともあります。
◎世界の付加価値税の標準税率の比較検討
財務省調べの「付加価値税率(標準税率及び食料品に対する適用税率)の国際比較」から標準税率が高い国ランキングは、1位 ハンガリー 27%、2位 クロアチア、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー 25%、6位 アイスランド、ギリシャ、フィンランド 24%の順です。ちなみにイタリア22%、イギリス、フランス、オーストリア20%、ドイツが19%です。
ヨーロッパ各国の付加価値税率は長い時間をかけて20%台の税率を実現してきました。
もちろん、食料品などに対する軽減税率がありますが、世界的傾向としては付加価値税(消費税)が高い国では、負担がある分、教育・福祉が充実しているといえます。比較的税率が低いのは中国とカナダの13%です。消費税が10%なのは韓国とインドネシアです。
出典不明の「税は国家なり」という名言があります。かつて文藝春秋から出版された司馬遼太郎さんの「この国のかたち」にあやかれば、税はその国のかたちだと思います。税がなければよいとか、税率が低い方が良いかどうかという単純な議論は何の意味もなく、むしろその国の教育や住宅政策そして社会保障の在り方によって、税の仕組みや税率に差があると考えた方がわかりやすいです。
◎消費税増議論を恐れずに進める
本紙536号2020年3月号1面に「これからの20年を乗り切るためには消費税増税議論をはじめざるをえない」と書きました。疑問は「消費税増の議論をタブー視してはいけないのではないか」、特に「保険料率の上限設定を伴う社会保険制度は、その継続性を維持するためには増税せざるをえない局面が近い将来起こるはずだ」という強い危機感があったのです。あれからでも54カ月も経過した現在まで、どちらかといえば消費税増の議論をタブー視し、大衆迎合的政治を進めてきた与野党の国会議員の責任は重いと思うし、消費税廃止とか税率引き下げなどという無責任な政治集団を容認してきたのは選挙権のある人々の責任なのかもしれないとも思います。
本年度から医療保険制度と介護保険制度の保険料率の上限が引き上げられました。後期高齢者医療制度の保険料率について、今年度被保険者一人当たり平均保険料額は、全国平均で年額84,988円となる見込みで、来年度は年額86,306円になります。年間収入が約1000万円を超える人には、保険料負担の年間上限額(賦課限度額)について、段階的に引き上げられます(今年度は73万円、来年度は80万円)。
介護保険でも高額所得者の保険料が引き上げられます。介護保険料は保険者ごとに大きな差がありますが、高額所得者の保険料が年間80万円を超える保険者も少なくありません。子ども子育て支援に財源が必要なことも理解できますし、全世代型社会保障制度は大切です。だからといって取れるところから取ればいいわけではありません。保険料の上限設定の見直しとか、高額療養費等に関する見直しを小幅に行うのもやむを得ないと考えられる人がいるかもしれませんが、この場面では、どう考えても増税の議論を進めないと無理ではないかと判断できます。
公債発行で赤字を補填して社会保障給付費を確保する方法はもはや限界です。国債費以外の歳入と歳出を差し引きゼロにするプライマリーバランスを確保し、もうこれ以上、国債残高を増やさない覚悟が必要です。まずは法人税率の引き上げと消費税の引き上げを徹底的に議論し、持続可能な社会保障制度の全体像を明確に示しましょう。高齢者も含めて勤労と納税の義務を果たしますので、福祉の正当な要求を満たして下さい。
少しでもこの国のかたちが理解できる人の多くは、このさき消費税10%のままではどうにもならなくなることは理解できると思いますが、タブー視して無視するのはやめましょう。
社会医療ニュースVol.50 No.589 2024年8月15日