介護側が医療を利用するような時代だといわれている気がする介護報酬改定

4月1日から障害福祉サービス等報酬と介護報酬が改定されます。報酬は事業者に支払う単位数を決めており、1単位10円で計算されることになっています。改定率は介護が0.70%、障害福祉が0.56%、このうち0.05%は4月から9月までに0.1%上乗せ評価されるものです。報酬の改定率はあまりにも僅かですが、実質的サービスの質と職員の処遇を決定することになると同時に、事業の存続を決めてしまいます。

障害福祉サービス等報酬改定は「障害者の重度化・高齢化を踏まえた地域移行・地域生活の支援、相談支援の質の向上、効果的な就労支援、医療的ケア児への支援などの障害児支援の推進、感染症等への対応力の強化などの課題に対応」するための改定です。

介護報酬改定は「感染症や災害への対応力強化、地域包括ケアシステムの推進、自立支援・重度化防止の取組の推進、介護人材の確保・介護現場の革新、制度の安定性・持続可能性の確保」のための改定だと説明されています。

最近の報酬改定の特徴として、介護と医療の連携の強化という課題があるように思います。介護や障碍により対人福祉サービスを必要とする人に対する医療の提供は、不可欠です。一応、自立生活が可能な人でも、傷病により医療を必要としますし、健康診断などを通じて全く医療と無関係というわけにはいきません。介護が必要な方が傷病になれば医療が必要ですが、何らかの障碍がある場合、その障碍を回復したり軽減したり、重度化予防したり自立を促進したりするために医療サービスが不可欠な場合が少なくありません。

ただ、介護が必要な状態でも通常の生活が何とか維持できる場合は、特段、医療サービスが必ずしも必要でない場合もあります。障碍があるからといって「傷病がなければ健康なんだよ」とは、重度の障碍者でもある友人に大昔に教えてもらったことです。その時から、ぼんやりとですが「本人の自立生活があり、どうしても自分ではできないことは介護してもらい、医療が必要な場合は適切に提供できるようにすればいいのか」と考えるようになりました。

◎何らかの医療行為がなければ生活できない状態もあります

いい方が難しいのですが常時医療管理下に置くことが必要な患者さんは、結構います。現在ならそれこそECMO使用中の重篤患者さんもいますが、特段の注射や医療処置の必要もなく経過観察中の入院患者さんもいます。四肢が全く動かすことができず人工呼吸器を外すことができない在宅の障碍者の人もいます。つまり「何らかの医療行為がなければ生活できない状態」ということがあるのは、最近ではそんなに珍しいことではありません。例えばですが、特別養護老人ホームに入居している利用者は、月1回程度の医師の診断が必要な場合からターミナルケアの段階で毎日往診していただいている場合もあります。もちろん、看護師は配置されていますが、夜間に看護師さんがいない場合の方が普通です。

病院は24時間365日、医師と看護師は必ず配置されています。それに対して障害施設とか介護施設では、通常は医師と看護師が常駐しているわけではないというということを、説明したいのです。それにもかかわらず、介護には何らかの医療が不可欠ですと申し上げているのです。全国の医師免許保有者のうち特別養護老人ホームや福祉型の障害者施設に出入りされている方の比率は極めて少数です。看護師さんも同様で8割強は医療機関勤務です。

このような現状で障害とか介護の分野で医療との連携を強化する必要性が認識されるようになっています。特に、リハビリテーションの普及は機能訓練職員として少しだけ関与してきた時代から、作業療法士、理学療法士、言語聴覚士らによる支援が効果的なことを明らかにしてきました。また、感染症対策では、トーレーニングを受けた適切な医療従事者の関与が有効であり、ターミナルケアではチームワークが重視されるようになりました。

また、介護保険に導入されて栄養ケアマネジメント、リハビリテーションマネジメント、嚥下咀嚼に対する歯科医、歯科衛生士、言語聴覚士などの関与は、介護度の重度化防止とか栄養状態の改善に大きく貢献してきました。

◎それでも介護が主で医療は従ということが基本ではないか

単刀直入にいいますが、医師や看護職をはじめ医療従事者の意識の中で「介護より医療が上」という考え方の人が多いように思えてなりません。医療従事者の多くは国家試験による免許取得者ですが、社会福祉士も介護福祉士も国家資格ですが、資格取得に必要な基礎学力に差があるのでしょう。多職種のチームがチームとして円滑に活動するには指示の関係の上下があっても、職種ごとの上下関係が固定化してしまえばチームとしての能力を最大限引き出すことができなくなることは明らかです。ただ、病院内での職種間の上下関係のような因習を打破するためには強大なエネルギーが必要です。問題は病院内の因習が障害施設とか介護施設にそのまま持ちこまれた場合、大きな問題になることがあります。

介護施設では介護サービスがメインで医療だけ運営されているわけではありません。介護が主ですが介護側が医療を利用する時代に突入したと思います。そう思うような報酬改定です。

社会医療ニュースVol.47 No.548 2021年3月15日