三菱電機の品質不適切行為事案にみる品質風土・組織風土・ガバナンスの改革

夜景も美しい長崎の街の人々が「みつびしさま」と話し合っているらしいことに気づいたのは40年ぐらい前のことです。長崎といえば巨大戦艦『武蔵』を建造した三菱重工業長崎造船が代名詞のようになっていました。

船には電気が不可欠で造船での電気関係を引き受ける株式会社として1912年に三菱造船電気製作所から分離独立したのが三菱電機で、創業110年、2025年には売上高5兆円、営業利益10%を目指す日本の総合電機のリーディングカンパニーです。

◎三菱電機経営層は品質不適切を放置

本年10月20日付けの三菱電機株式会社HPに「当社における品質不適切行為に関する原因究明及び再発防止等について(総括)」が公表され、YouTubeでの記者会見も行われました。

冒頭「三菱電機株式会社は、昨年6月に当社の長崎製作所における鉄道車両用空調装置等の不適切検査が判明して以降、社長を室長とする緊急対策室と外部専門家で構成する調査委員会を設置し、品質不適切行為の徹底的な事実調査と真因究明に協力するとともに、昨年7月の社長交代を経て、新しい経営体制の下、昨年10月に再発防止策を含む3つの改革(品質風土、組織風土、ガバナンス)を策定し、調査活動と並行して抜本的な改革活動に全社を挙げて取り組んで」きたと書かれています。

その後、外部専門家で構成する調査委員会に委嘱した品質に関わる不適切行為に関する調査について、「当社22製作所等の全ての調査が完了し、調査報告書(第4報・最終報告)を本日付で受領した」ので広表するとのことです。この報告書A4判本文219頁、概要版41頁ありますが、念のため読んでみました。驚愕の事実が書かれています。報告書の中の「原因分析・提言」につぎのようにあります。

①手続による品質の証明が徹底されておらず、「品質に実質的に問題がなければよい」との正当化(顧客説明の回避を含む)、

②品質部門の脆弱、

③ミドル・マネジメントの機能不全、

④本部・コーポレートと現場との間の距離・断絶、

⑤拠点単位の内向きな組織風土、

⑥事業本部制の影響、

⑦経営陣の決意の「本気度」に課題。

◎品質不適切行為の再発防止について

同時に公表された三菱電機の「当社における品質不適切行為に関する原因究明及び再発防止等について(総括)」という文書には、「品質風土・組織風土・ガバナンスの3つの改革について、以下の具体策を重点的に展開することを約束します」とあります。長文の一部を引用します。

⑴品質風土改革~エンジニアリングプロセスの変革~

①設計や品質管理のリソースと負荷の見える化に基づく人材の増強や作業効率化、管理スパンの適正化など、現場マネジメントを確実に実行できる環境の整備、

②レビュアーの配置拡充やレビュー実効性の向上など開発設計のフロントローディングの推進、

③データに基づく品質管理と手続きの実行、経営層による顧客との会話

上記①~③の取り組みを通じて、顧客に対しては、技術的に正しい説明を尽くす組織能力を 再構築するとともに、経営層自ら顧客と対話・交渉することで現場の負担を軽減し、「そもそも現場が品質不適切行為を起こす必要のない仕組み」を構築します。

⑵組織風土改革~双方向コミュニケーションの確立~

①経営層自らの変革を図るべく、幹部へのコーチングや現場と目線を合わせたタウンミーティング、執行役による社内SNSを通じた情報発信などの継続的な実行

②事業所や部門を跨るローテーションや1on1ミーティング、「心理的安全性/雑談・相談ガイドライン」の発行など、部門内外で人が繋がり、組織の自走化に資するコミュニケーション活性化策の積極的な展開

③職場の諸課題に対しては、報告を待つのでなく、管理者側から積極的に傾聴、把握し組織的解決に繋げるような行動変容の徹底

上記①~③の取り組みを通じて、双方向コミュニケーションを確立し、“上にモノが言える”、“課題解決に向けて皆で知恵を出し合える”風土を醸成します。

⑶ガバナンス改革~予防重視のコンプライアンスシステムの構築~

①この1年で実現した取締役会構成の見直しを踏まえて、特に社外取締役との重要情報の共有を徹底する仕組みを構築し、取締役会の経営モニタリング機能をさらに強化

②全社的な横ぐし機能を強化し、予兆把握と予防を重視した内部統制システムを構築、全社リスク制御機能を強化

③社外取締役過半となった取締役会によるステークホルダー視点を重視したモニタリングによる3つの改革を持続的に加速・改善

上記①~③の取り組みを通じて、より効率的で実効性の高い予兆把握と予防重視のガバナンス体制を構築します。

◎コミュニケーションが崩壊していた事実

長文の引用ですいませんが、1人以上部下を持つ人々には、これらの文章をHPで確認して欲しいと思います。読んでいただけたら、「今の日本社会の会社で、どこでも起こる可能性があるのだろう」ということが、よく理解できると思います。特に、「双方向コミュニケーションを確立し、“上にモノが言える”、“課題解決に向けて皆で知恵を出し合える”風土を醸成します」という文章を読んで、わたしは固まりました。

実際に劣化してしまった企業風土を改善するために、説明資料に「あいさつ、感謝、さん付けでよぶ」ことを奨励すると説明されているのをみて、やりきれないというか、とても悲しい思いがよぎりました。

世界はお互いの人格を認め、差別を問題視し、多様性を尊重しようと努力しているのに、全く取り合わず封建草の根昭和のオジサンがセクハラもパワハラもDXも理解せず私欲のために大企業で高給を踏んだくっているとしか考えられなくなります。これが日本のリーディングカンパニーだとすれば、わたしたちはどうすれば良いのでしょうか。

社会医療ニュースVol.48 No.568 2022年11月15日