最近の日本経済の状況と比較してみれば社会保障給付面の改善はタイムラグあり
物価高の影響で以前より生活が苦しくなっていると感じている人々が多い。特に、障害年金や老齢年金、雇用保険や生活保護を受給している人々は悲鳴です。このような状況で6年に一度行われる医療・介護・障害福祉サービスのトリプル改定の内容が公表され1カ月が経過しようとしている時点では、改定内容に不満を表す人々が、私の周りには少なくありません。
診療報酬改定への最大の不満は、外来医療での高齢者など慢性疾患の治療や健康管理を担う診療所・中小病院を狙い撃ちにしたかのような「特定疾患療養管理料の対象疾患から糖尿病、高血圧、脂質異常症を除外する」との項目が盛り込まれたことです。実際に、内科系診療所を中心に月100万円単位規模での収入減になるといわれています。
医療保険の食事療養費の患者自己負担分が30円引き上げらます。入院時の食事療養基準額の見直しは、27年ぶりで、物価高の影響で食材料費が高騰し、近年、病院給食の委託単価が食事療養基準額を上回る状況が続いていました。実は、介護保険における食費の利用者負担額(1食当たり約482円)と約22円の格差があったため、公平性に欠けるという批判があったのです。
介護報酬改定では、訪問介護の報酬が引き下げられたことです。前年度の利益率が、全サービス平均が2.4%だったのに対し、訪問介護が7.8%と高かったことが、報酬引き下げの根拠ですが、サービス提供者側は猛反対しています。
社会保険によるサービス提供者に対する報酬改定は、いわば公定料金なので政治的財政的影響を受けざるをえません。原則的には、経営状況を勘案してサービス提供が困難な部分に増額を、多少でも経営的に余裕がありそうな場合は減額することになります。問題は、部分ごとの収支状況の平均値を参考に知るため、平均値より低い事業者は不満、高い事業者は沈黙しますので、大幅に報酬を引き上げない限り全員が賛同することはありません。
ところで、最近の日本の経済は、長期デフレや人口減少などの課題に直面してきましたが、最近では景気が回復傾向にあり、企業収益も改善しています。上場企業の業績は、企業ごとに異なりますが、今年3月期の純利益が3期連続で過去最高を更新するそうです。見通しでは43.5兆円と前期比13%増え、経済再開や値上げの浸透、円安が収益を押し上げることによって、日本経済は着実に回復しているのです。
◎実体経済とのタイムラグは社会保障給付の宿命なのだ
何らかの公定料金を改定するには、根拠になる数字を示す必要があり、ドンブリ勘定というわけにはいかないだろう。ただし、数値はいつも過去のもので現在を数値化することは至難の業だ。介護改定のための重要な調査は「介護事業経営実態調査」で、令和5年度の収支報告と令和4年度の経営概況について調査し、この2年度間を比較検討しているが、この期間はパンデミックであったため(コロナ関連補助金及び物価高騰対策関連補助金を含む)場合と含まない場合を昨年11月10日に公表しているのです。診療報酬では「第24回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」(令和5年11月24日公表)なのです。
いつの場合もそうだが統計数値には、読み方がある。例えば、2%の差が大きいのか小さいのかという判断が問題になる。何とか増やしたい側は「僅かだ」ということになるし、減らしたい方にすれば「大きい」と読んでしまう。統計学的には検定式というものがあり、数値差の有意かどうかが議論される。だが、公定料金の論争には、そのような議論より「落としどころの議論」が最優先されているのではないか、と考えざるをえない場合に直面した体験が私には何度かあるのです。
日本経済が最近では景気回復傾向にあり、日経平均株価が史上最高額を更新している現状と、2年前あるいは3年前の感染症の世界的流行期のデータで比較される違和感はどうしても付きまとってしまう。その上、今後の賃上げも盛り込んだ報酬改定だと説明されると、何か社会主義国で一時多用された計画経済の絵空事なのではないかと心配になってしますのです。経済は生き物で、予測は大変困難だということが、経済学の大前提だったのではないでしょうか。
今いえることは、報酬改定という作業は、実体経済とのタイムラグが存在すること。急激な物価変動時などに柔軟に対応できる仕組みを検討する必要があることです。ただし、経済は単なる勘定ではなく、一面において人々の感情であることも事実だということを考えてみることが、必要だと思う。
◎物価変動時などの経済に柔軟に対応できる仕組み
かれこれ53年前の70年暮れに答申のあった19%の診療報酬引き上げは、1月に告示され、2月から実施されたものの、答申に書き込まれていた病院と診療所の格差の変更は認められず、厚生大臣の当初の諮問案どおりとされた。このため支払い側が反発し,中央社会保険医療協議会は実質的に8月まで審議が中断してしまいました。再開された中医協では、第4次中東戦争を契機とした、石油ショックによる狂乱物価に対応するために診療報酬の引き上げが合意され、10月から16%引き上げられたのです。年2回を合わせて、35ポイントの引き上げとなったことがあったのです。このことを忘れることができないので、杓子定規ではない対応が重要だと思います。
社会医療ニュースVol.50 No.584 2024年3月15日