家族支援が本筋だ!
児童手当や育児休業給付など少子化対策を拡充する改正子ども・子育て支援関連法などが5日、参議院本会議で可決、成立。総額3兆6千億円の政策を行うためのもので、「子ども・子育て支援金制度」の創設も盛り込まれています。支援金制度は、消費税等の増税を回避して個人と企業などから公的医療保険料に上乗せして集めるのです。
26年度から段階的に徴収し、満額となる28年度には、自営業者で世帯あたりの平均で月に600円程度、中小企業勤務の会社員は、月平均700円程度になる見込みです。支援金を活用し、児童手当の所得制限撤廃や高校生年代までの支給延長、親の就労にかかわらず、保育所を利用できる「こども誰でも通園制度」、妊娠・出産時の合計10万円相当の給付、両親ともに育休を取る手取り10割相当を支給する費用にあてられます。
「実質的な増税だ」「医療保険制度を利用して支援金を集めるのは禁じ手」「妊娠や出産費用の無償化が先」「男女がともに子育てを担えるような社会にしないと無意味」などの各種多彩な反対論があったものの、これで支援制度は船出したことになりますので、温かく見守りながら、有効性や妥当性を確認していきたいと考えています。
この制度は段階的に拡充され、26年度から医療保険加入者から支援金が集められはじめ、その後年度ごとに段階的に引き上げ。全ての給付が開始されるのは26年度中ですが、政府は30年代初頭までに子ども・子育て予算倍増の目標も設定しています。
5日、23年に生まれた子どもは72万7277人、「合計特殊出生率」も1.20と厚労省が公表。同年の婚姻数は47万4717組で、50万組を割り込んだ。半世紀前の70年代は100万組を超えていたことと比較すれば、いわゆる「難婚化」が進んでおり、少子化対策が人口増に対する大きな意味を持つのかどうかはエビデンスがありません。
いつも同じようなことをブツブツつぶやいていますが、社会政策や社会保障という観点から「少子化対策」などという政策は成立しないと考えています。人口が食物生産量との関係があることはよく知られていますが、人口を増やせとか減らせとかいった類の制度政策の成否が、歴史上学問的に証明されているわけではありません。
「産めよ増やせよ地に満ちよ」などという旧約聖書の創世記1章28節の言葉を公言すれば、日本では「ハラスメント」だと叩かれるでしょう。イスラエルでは子どもを多く持つことが良いとされ、避妊や中絶も禁止されていますし、同性愛が嫌われることもあります。それは、米国居住者の半数程度の人々も同じかもしれません。
公衆衛生史をかじったことがある人は、戦前の厚生省予防局優生課が「産めよ育てよ国の為」を推奨し、それが忌々しい優性思想の根底にあることを理解しています。私の大学院の指導教授は、元帝国陸軍軍医中佐で公衆衛生医、戦後は家族計画と人口学の権威でしたが、「人口政策は効果がない」と何度も指導していただきました。
戦後の日本は、産児制限そして家族計画に方針転換し、その延長線上に母子保健、児童福祉、母子福祉、児童手当、家族(ファミリー)支援が重層的に追加されてきたのです。その意味では、今回の子ども子育て支援政策の展開は、声高に「異次元」などというものではないと判断しています。それは日本の全世代型社会保障の発展形に過ぎず、医療保険の保険料に上乗せして支援金を集める「別次元」の手段を用いたと歴史的に評価されるのでしょう。
社会医療ニュースVol.50 No.587 2024年6月15日