医療介護従事者の安定確保のために物価高騰対応地方創生臨時交付金を

あらゆるシステムは、保守的なので前提が変われば柔軟に変更せざるをえないものだ。

システムを創る場合、必ず前提条件がある。多くの場合は、その時点で想定する範囲に過ぎない。厄介なのは、状況は時間経過とともに変化し、多くの場合「想定外」のことが起こることです。

何も難しいことではなく、こうしたいが、こんなことも起こるかもしれないので、あらかじめ余裕を待たせて計画したとしても、目的が達成できないことの方が多い。予算を建てて行動計画を詳細に立てても、ハプニングが起きて計画が達成できないという体験は誰にもあるだろう。

何か目的のために計画しても「未達」のことも「想定外」のこともあるのであれば、途中でも計画変更し、目標値の見直しを進めないと対応できない。不安定で不確実で複雑で曖昧な社会においては、すでに予測すること自体が困難で、予測不能であれば計画自体を立案できなくなる。

経営という世界では、1年間の短期計画と3年程度の長期経営計画、そして5年以上先の中期計画を策定し、3カ月ごとに評価を行い、軌道修正が必要であれば直ちに作業チームで再検討するが大切だ。今、病院経営とか介護保険事業の世界では、長期、中期はともかく短期計画も立てづらくなってきている。何度計算しても「今期は赤字決算にならざるをえない」状況に陥っている。もはや、経営継続性が確保できない組織が山のようにあるのです。

◎値上げ報酬改定のはずが経営を圧迫して危険水域

介護報酬と6月から実施された診療報酬改定が、賃上げを最優先する改定であったことは明らかだ。今年1月以降岸田政権は2%程度の経済成長のためには、大幅な賃上げしかないことを繰り返し説明していた。岸田文雄首相は2月1日の衆院本会議で、医療・介護分野の賃上げに向け、診療報酬と介護報酬の改定に盛り込む加算措置について、社会保険負担の「実質的な負担にはならない」との見解を示した上で、「物価高に負けない賃上げを実現するため、加算措置を含め、(各報酬で)必要な水準の改定率を決定した」と説明。「1月19日には、医療・介護・障害福祉分野の24団体に対して具体的なベースアップの水準を示し、積極的に賃上げに取り組んでもらうよう私から直接、要請を行った」と強調されました。

その後、こまごまとした計算式を示し今年度2.5%程度の賃上げ、来年度2.0%程度の賃上げを想定した報酬改定が行われました。しかし、3月末前後の大企業の賃上げは5%以上となり、その後の中小企業でも5%程度の賃上げが行われたことが明らかになったのは5月に入ってからでした。

この時点での医療介護従事者は「世の中が5%賃上げしたのに何で2.5%なのかわからない」という穏やかな反応でした。その後6月の消費者物価指数が2.5%上昇したとの報道があり、「2.5%賃上げでもすぐに物価が高騰すれば、手取りは目減りするしかない」という落胆の声が蔓延しました。「物価上昇以上の賃上げで2%以上の経済成長」というのは政権のスローガンだったはずです。

5月から6月末まで医療機関や介護事業者の給与担当者は、連日連夜2.5%賃上げのためのシミュレーションを行い、その数字をもとに短期経営計画の数字入れ替え作業で多忙でした。多くの経営組織体では、何度計算し直してみても今年度の経営計画上の数字で経常利益を見込めないばかりか、経常損益が発生することが明らかになったのです。

このまま来年度は2%以上の賃上げをせよというのは、かなりムリな要請なことが徐々に明らかになりました。今後の経営努力で、経常利益率は0当たりで正規分布するようになるかもしれませんが、半分以上は経常損益を計上することになるのでしょう。

◎物価高騰に対応する臨時交付金の支給を

医療も介護も従事者が安定的に確保できなければ制度を維持することはできません。看護師不足で病棟を閉鎖している病院や介護職員がいないのでショート・ステイや利用者を制限する、あるいは完全に休止している介護保険施設もあります。訪問介護職員は、現状維持がやっとで1人退職しても補充どころか応募者はいません。

職員不足は深刻なことを政府は十分把握していると思います。医療や介護への広範なニーズに対応できなくなれば、医療保険も介護保険制度もいずれ崩壊します。賃上げが民間企業の半分程度しかないということが知れ渡れば、あえてこの分野では働こうとする人は減少します。

すでに「想定外」の事態に直面しているわけですから、何らかのシステム変更が必要です。

誰が決めたのか診療報酬は2年毎、介護報酬は3年毎などというシステムは変更する必要がありませんか。政府の計画では春闘が5%以上になるという確信はなかったし、とりあえず2.5%賃上げ要請したことが賃上げ相場にどの程度反映されるのかなどというシミュレーションはなかったのでしょう。そして6月の消費者物価指数が2.5%上昇することは予想していなかったのです。

政府は、昨年11月に創設した「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」(重点支援地方交付金)を、医療介護従事者に支給していただくか、速やかに報酬改定作業を行ってください。

社会医療ニュースVol.50 No.589 2024年8月15日